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相応しい人⑨

叶芽の父、柊麻人と言う人物を初めて知った渚は、あまりに自分と違いすぎる事にショックを受け、スマホを閉じた。 住む世界が違うと溜め息が漏れる。 するとその時だった。 足音がこちらへ近づいて来て、人影が渚の目に映り込む。 顔を上げるとスーツに身を包んだ30代くらいの端正な顔立ちをした見知らぬ男性がこちらを向いており、話し掛けてきた。 「宮市渚さんとお見受けします」 「…………誰?」 自分の名前を知る知らない男に不審に思い睨み付けるように見る。 「申し遅れました。 わたくし柊家にお仕えする藤堂と申します」 「え?」 柊と言う名に目を丸くする。 お仕えする………その言葉に使用人と言うのが本当にこの世に存在するんだなと思った。 しかしその使用人が自分に何の用なのか……? 叶芽が傍にいるわけでも無さそうなので再び不審な目を向ける。 「あの、俺に何の用ですか?」 何だろうか?少し嫌な予感がする。 「叶芽様の事でお話があります」 「………」 叶芽がどうしたと言うのだろうか? すると藤堂が場所を変えましょうと彼が乗って来た高級車へ案内された。 広く綺麗な内装に乗っていいのかと躊躇うが、藤堂がどうぞと言うので助手席へ乗り込み、藤堂は隣の運転席に乗る。 「で、話って……」 思いきって渚から話を切り出した。 藤堂はひと息吐いてこう言った。 「単刀直入に言います。 叶芽様と別れて下さい」 「……は?」 はっきりと別れてくれと言われ、一瞬頭が真っ白になった。 この人は何を勝手なことを言っているのだと。 「何でそんなこと…… カナちゃん……叶芽…くんは了承してるんですか?」 この事を叶芽は許したのだろうか? しかし藤堂は首を横に振った。 「これは私の独断です。 叶芽様はご存知ありません」 「だったら、別れろと言われる筋合いはありませんけど」 そう反論すると藤堂は溜め息をつき、貴方は何も分かっていないと説教するように言う。 「叶芽様と貴方では住む世界が違うのですよ」 藤堂は少し語気を強めるようにはっきりとそう口にした。

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