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第二章・4

 きなこを寝かしつけ、晶は自分も眠る支度をしていた。  静かな夜だ。  かすかに響いた、かたん、という音を、晶の耳はすぐに拾った。  緊張が走る。  やがて、黒のスーツに身を包んだ体格のいい男が現れた。  許しも得ずに、男は部屋へ上がり込み、晶の前に立った。 「探したぞ」 「見つかっちゃったかぁ」  晶は、諦めたような面持ちで、薄く笑って見せた。 「まぁ、見つかるなら、あなたがいいとは思っていたけど」 「あまり心配かけてくれるな」  男は長い腕を伸ばし、晶をその胸に抱きしめた。 「何か、この世に未練が?」  晶はその問いには答えず、ただ一言伝えた。 「抱いてくれる? 久しぶりに」 「逃亡者と関係を持つなど」 「無理しちゃって」  晶は、敷いたばかりの布団に横になった。 「お願い」  少しかすれた晶の声に、男は目つきを和らげた。

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