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第三章・6
「では、今日のテストは明日返します」
算数のテストは、終わった。
慎は、確かな手ごたえを感じていた。
いつもなら空白の目立つ答案用紙に、ひとつの空欄も作らなかった。
二度三度と見直す余裕さえ、あった。
「どうだった?」
心配そうな亮太に、慎はうなずいてみせた。
「大丈夫。絶対100点間違いなし!」
休み時間も算数の教科書を開いて、猛勉強していた慎だ。
その返事は、実に頼もしかった。
「きなこ、俺の家で飼うようになったら、いつでも遊びに来いよな!」
「うん……。でも、慎のお父さん、僕のこと嫌いみたいだし……」
「気にすんなって。俺がついてるだろ?」
「ありがとう」
放課後、二人はきなこを連れて晶の家へ行った。
晶は、例の怪しい黒づくめの男に見張られているような気配だったが、その笑顔は変わらず温かだった。
「慎くん、算数がんばったんだね。きっと、100点取れるよ」
「明日、答案返って来るんだって」
そして明日は、晶との別れの日でもある。
「晶さん、この近所に住めないの?」
「晶さんがいないと、寂しいよ」
別れを惜しむ三人を、黒服の男は無表情でただ眺めていた。
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