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第四章・5

 言葉通り、高校・大学と慎は恋人を一人も作らなかった。  成長するにつれ、やんちゃだった顔つきや言動も大人びた表情や仕草に変わり、男女を問わず人気があった。  告白されたことも、幾度となくあった。  それでも慎は、必ず同じ言葉で断ってきた。 「俺、結婚したい相手、もう決まってるから」  一流企業に勤める父を持つ、αの慎が言うことだ。  これはつまり、許嫁がいるに違いない、と噂にもなった。  本当は、慎が一方的に思い込んでいるだけなのだが。  亮太は、約束通り慎を支え続けた。  成績が振るわない、教師のえこひいきに悩んでいる、就職先はどうしよう、などなど、長い手紙や電話にも、親身になって寄り添った。 『亮太くん、慎くんのこと、ずっと見守っていてくれるかな』  この晶との約束を、固く守っていた。  しかし、発情期にはさすがの亮太も参った。 「もう……! 肝心な時に、傍にいてくれないんだから、慎ってば!」  火照る身体を持て余し、何度手近なαになびいてしまいそうになったことか。  そんな時は、ばりばりと発情抑制剤を噛み砕いて飲んだ。  慎を裏切ることは、決してなかった。

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