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第4話 別れ
覚悟を決め祖母の眠っている病室に入る奏耶
そこに居る祖母は一回り小さく見えた。
側に公貴の母が付き添っていてくれていた。
「奏ちゃん、今おばあちゃんまだ、薬で眠ってるわよ」
「おばさん、ありがとう。ばぁちゃんに付き添ってくれて。」
「何言ってんの、当たり前でしょう!奏ちゃんがしっかりしないと
おばあちゃん心配するわよ。」
にっこりと微笑んで元気付けてくれる公貴の母には感謝しかなかった。
眠っている祖母の手をそっと握る。
その姿をみた公貴の母親が
「おばあちゃん、いつも奏ちゃんの自慢してたのよ。うちの奏耶は!が口癖でね、
本当に素直で良い子だから仲良くしてくれてありがとう、って言っててね、うちの公貴と
まるで兄弟のようだ!って良く話してたのよ。」
「・・・そんなこと・・・言ってたんだ。ばぁちゃんらしいや・・」
胸が熱くなる。
いつも、自分のことは後回しで奏耶のことを大事にしてくれた。
学校の行事でもいつも来てくれた。
父と母がいなくても寂しいなんてほとんど感じたことはなかった。
本当に感謝している。
「おばさん、ばぁちゃんさ、あんま良くないんだって・・・」
「・・・歳のせいかしら・・・いつも元気なんだけどね。」
「うん、俺もそう思ってた。でもばぁちゃん、絶対俺には痛いとか言わなかった。ずっと我慢してたんだと思う。でも、俺がもっと早く気がついてたら・・・」
祖母の手を握りしめ悔しくなって力が入ってしまう。
すると、公貴の母は
「いつか自分が先に逝ってしまう事はおばあちゃんもわかってたから、だからこそ奏ちゃんには楽しく幸せに過ごして欲しいって思ってたから頑張ってたんじゃないのかな・・・親ならそう思うものよ。ましてや、奏ちゃんはお父さんお母さんを早くに亡くしてるから、おばあちゃん尚更心配してたし、可愛かったんだと思うわよ」
「・・・わかってる・・・おばさん、迷惑掛けてごめん・・・」
「何言ってんの。私のことは親と思ってもらって良いのよ!」
明るく冗談まじりに答えてくれる。
「うん。ありがとう・・・」
そんな会話の途中でピクリと祖母の手が動いた。
「ばぁちゃん!!」
奏耶は声を掛ける。
ゆっくりと目を開ける祖母は微笑みながら小さな声で
「奏耶・・・ごめんねぇ・・・今年もオヤシロさま一緒に行きたかったんだけどばぁちゃんは無理だねぇ・・・」
「そんなことないよ!!ばぁちゃん!早く治してまた行こうよ!ね?」
泣かないと決めていたのに涙が止まらない。
そんな奏耶の頭を撫でながら祖母は
「泣いても変わんないよ・・・奏耶。男の子だろ?泣いちゃいかんよ?」
「・・・ばぁ・・・ちゃん・・・」
「お〜よしよし。こんなに大きくなったのに泣いちゃダメじゃろ・・・ばぁちゃんいつも奏耶の側におるからね・・・」
「・・・ばぁちゃん・・・」
すると、祖母は奏耶を見つめ優しい笑みを向けながら再び眠った。
だが、2日後、そのまま祖母は穏やかな表情で眠るよに亡くなった。
心肺停止が確認されたあと奏耶は泣きじゃくりただ祖母に抱きついていた。
祖母を何度呼んでも、揺さぶってもおきない。
あの優しい声も笑顔も二度とみることは出来ない。
だが、そんな奏耶に公貴がこう言った。
「奏耶、そんなんじゃ、ばぁちゃん、天国逝けねぇじゃん・・」
途端に動きが止まる。
祖母は以前、奏耶とこんな会話をしていたことを思い出した。
「奏耶、ばぁちゃん死んでもわぁわぁ泣いちゃいかんよ!奏耶が泣き続けたらばぁちゃん天国いけねぇからな、あはは」
「そんなことないよ!俺、そんな泣き虫じゃ無いもん。ばぁちゃん死んでも俺は大丈だしぃ」
「あはは、どうだかねぇ」
そんな会話をしていた事を思い出し、泣くことを止めた。
これは祖母からの願いでもあるはずだ。
自分がいつまでも泣いてたら祖母は天国に逝けない。
しっかりしなければいけない。
そう決めると涙は止まった。
奏耶は亡くなった祖母を家に連れて帰ると公貴の両親がいろいろ助けてくれたおかげでひっそりと葬儀を終えた。
くしくも、3日後は毎年祖母と楽しみにしていたオヤシロ様のお祭りだった。
近所の人も帰り、公貴の家族もうちに帰り奏耶は一人になった。
でも、いつまでも泣いてはいられない。
約束したのだ。
そして、明後日、今年は一人でオヤシロ様のあの場所へ行くことにした。
祖母と初めて内緒の約束をしたあの場所。
あの日から自分の安らげるあの場所で祖母に伝わるように祈ろう。
そう決めたのだ。
部屋の窓を空けると、迫ってくるくらいの大きな月がある。
そんな奏耶の周りを優しく風が包み込むように吹いている。
・・・大丈夫だよ・・・もうすぐ逢えるから・・・
「・・・んっ・・・・誰だよ・・・」
そんな言葉が頭の中で聞こえた気がした。
だが、数日間の疲れが出たのか奏耶はそのまま死んだようにベッドで眠ってしまった。
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