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第9話 遭うべき者
この祠を守る神とよばれるようになり、500年と少しだったと思う・・・
実際は神では無いのだが・・・
記憶も曖昧になってはいるが俺も初めは人だった。
幼い時に両親は流行病でなくなったらしいのはうっすらと覚えている。
当時は戦のせいでほとんどの子供は日々を生きていくのが精一杯だった。
そんな環境の中、数人の人々は生き残り小さな集落を作った。
幼いころから他の者には見えぬ物を見て、感じる不思議な力があった。
生きていくにはその力を使う必要もあった。
最初の頃は自分たちが生きていくためその力を使い皆に喜ばれたが
人が増えるにつれ、刻成の異能を忌み嫌う者も増えてきた。
そんな時、雨が降らず食い物もなく周りの草木も枯れるほどの飢饉が襲った。
皆にせがまれ仕方なく異能に頼り、水脈を探しそこを掘ることで湧き水の出る所を見つけた。
村の者は喜び、その場所はやがて綺麗な泉になる程になった。
だが、近隣の村の者は刻成の異能は神の加護を裏切る者だと言うものが現れた。
初めは仲良く平和に過ごしていたがそれは程なくして無くなった。
この美しい池を自分たちのモノにしたいと思うものが村を襲ったりいわれのない罪で
連れて行かれたりと自分の周りの信じるものが次々と居なくなりやがて孤立する様になった。
その頃から、1匹の狐がいつも刻成の傍にいた。
もちろんその狐の姿は他の人には見えないものだった。
やがて、その狐は刻成が危ない目に合うたびに助けてくれた。
いつしかその狐の姿をするものは刻成にとって必要な存在となっていた。
10年ほどの時が過ぎ、孤立していた刻成を殺そうとするものが後を絶たなかった。
だが、そんな刻成の傍にはいつも狐がいた。
とうとう、長と呼ばれる者が刻成を村から追い出すという話になっていた。
身に覚えのない罪に問われた時、怒りに満ちた狐が姿を現した。
必要な時だけ刻成を頼り、用が終わると感謝もせず、辛く当たり挙句の果てに、罪人に仕立て上げ、村から追い出すという勝手な行動をする村の人間に対して今まで何も言わなかった狐が怒ったのだ。
声を聴くことがなかったのだが、その時初めて言葉を発した。
『愚かな人間どもめ、我が息子の力を好きなように利用し挙句の果てには罪人にし、なおかつこの村から追放するのか!愚か者が!!』
その言葉を聞いた時、刻成は驚いた。
村の蔵に何日も閉じ込め、ろくに食べるものも与えず、
罪人に仕立て上げ、死罪という形で村から追い出そうとした人間たちに対して狐は見たことのない程の怒りで言葉を吐き出していた。
刻成は呆然とみていた。
だが、頭の中では狐の言った言葉が頭の中でぐるぐるとまわっていた。
俺が狐の・・・息子?・・・俺の親は人だった・・昔亡くなったはず!なのにこの狐が・・・親?どういうことだ・・・
わけもわからずただ、茫然としていた。
だが、現実は村が焼かれ、泣き叫ぶ人々の声が刻成の耳に残る。
不思議と悲しい、辞めてくれという感情は湧いてこなかった。
仲の良かった友人はあっさりと刻成を裏切り、あんなに力に頼りきりだった友人も何年も口をきいてくれず刻成はずっと1人だった。
だが、刻成はそんな人々を恨んだことはなかった。
寂しかったが、狐がいつも傍にいてくれたから・・・
燃える村を見つめていたが、ふと気になり狐を見ると
白い狐は真っ赤な瞳になり、尾が9本になっていた。
神ではない。九尾といわれる妖怪。
だが、神ともいわれる存在。
そんな者の自分は息子?訳がわからない。
『驚かせたな。。。刻成。。。』
「息子・・・って・・・」
『息子だ。わしが昔、天狗の一族の娘とまぐわい出来た子じゃ。お前の両親・・・母はわしの事はおぼえとらん。母親は天狗の一族の末裔だった。わしと恋仲に落ちた母親は仲間から裏切りものとして羽をもがれ記憶を消され追放された。そんな母親の事を守っていた父親はお前が生まれた時にはすでに病に侵されていた。助ける事が出来なかった。すまぬな・・・お前は幸い母方の力が強かったから安心していたが、歳を経ていくとわしの力が出始めたんじゃ。お前はこのままだと人と同じ時間は過ごすことは出来なくなる。だからこうしてお前を守っていた。』
「どういうことだ?」
『お前の力を抑えていた。人の容姿を保つものも・・・』
「人の姿?」
『あぁ、人の姿を保つには力をうまく使わないとならない。そのためにはお前には番が必要になる。このままだといずれ母の力の翼が生えてくるだろう。そして、異能のちからはわしの影響がでるだろう。人として生きていくことは出来ぬ。だがいつかお前の力を引き受けてくれる者、分け合う者が現れる。今のお前のちからをここの泉が抑えてくれる。だがいつまでもは無理だろう。探せ。お前の事を愛し、大切に過ごしてくれるものを・・・』
「意味がわかならい・・・俺はどうなるんだ・・・」
『お前は力の暴走に耐え切れず消滅する。わしがそれを防ごう。わしの寿命もそろそろじゃ。お前にここを守って欲しい。この泉を・・・ここはるか昔は泉だった。お前のように異能の子が暴走し、泉が干からびた。』
「干からびた?だと・・・?」
『あぁ、一度ここは干からびたらしい。じゃが、いつもここにきてお前が寂しそうにしているのを見ているのが辛かった。じゃから、お前の前に姿を現した。わしももういつ消えるかわからぬ。お前にこのことを伝えることが出来、安心したわぃ』
そう言い残す九尾の狐は嬉しそうだった。
焼け野が原になってしまった村を離れ、泉の傍で狐と過ごし、自分の力の使い方、これからの過ごし方を学び生きていった。
刻成は狐の言う通り、歳をとらなくなった。歳を取らなくなると黒い翼が生えてきた。すると九尾と同じ、いや、それ以上の力を使えるようになった。
そして、狐は刻成に見守られながら静かに息を引き取り消えた。
最後に狐は最後にこう言い残した。
『お前には番が必要じゃ・・・それがいつになるのかわしにもわからぬ。じゃが、ひと目見ればわかるはずじゃ・・・わしもそうじゃった。じゃが、添い遂げることはできなかったが、お前は大丈夫じゃ・・・必ずお前の元に現れるはずじゃ・・そして必ず幸せになって欲しいのじゃよ。。。最後にわがままな狐の言うこと聞いてくれるかのぉ・・・』
そう呟くと刻成の父だと言う狐は灰になり消えてしまった。
父親という実感はないが涙が止まらなかった。
「くそ・・・じじぃ・・・番が現れるまで生きやがれよ・・・」
あれからどれほどの時間が経ったかはわからない。
だが、狐が行った通り刻成の前に現れたのだ。
自分の番となるべき不思議な美しい少年が・・・
刻成の胸が騒ぐ。
堪らなくて思わず抱いてしまった。
初めて抱いた。
白い肌がほのかに桃色になる。拒絶されることなく自分を受け入れてくれた。
喘ぐ声が耳の奥にまだ残っている。
気を失い自分の横で眠っている不思議な少年を見つめながらどうしようか?どうなるのか?楽しみで堪らない気持ちを押さえていた。
逢うべき者はきっとこの少年に間違いがない。
とりあえず、久しぶりの人肌に心地よさを思い出し刻成も眠りについたのだった。
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