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10:再び、蛇に囚われて
蛇原に抱えられるようにして、会場をあとにする。媚薬で発情しているせいか、とにかく体が熱く、喉が渇く。その熱量は欲望を鎮めなければ収まらないことは、もちろんわかっていた。
――「お願いだ……鎮めてほしい」
そう切り出すまで迷うことはなかった。寅山羊羮の社長である自分が言えば、恥だろうけれど、肉便器である夜の自分であれば、体を重ねる相手なんて選ぶ必要なんてない。
誰でもいい。でも、できれば確実に快楽へ突き落としてくれる相手がいい。そういう意味では、性事情がわかっている蛇原は適任だ。
マンションを出て少し歩けば大通りにたどり着く。
蛇原は手早く、流しのタクシーを拾い、寅山を慎重に座席の奥へ押しやり、続けて自分も乗り込む。息を荒げながらも、寅山は別宅の住所をタクシーに告げ、車は軽快に走り出した。
柴田の運転に比べれば、少々荒い気がしたが、そんなことに構っている余裕などなかった。
「体、つらいんでしょう。私へ体を預けて」
蛇原に促されるまま、寅山はその体を蛇原の太ももに預け、膝枕をされているような格好になる。一見、ただの酔っぱらいの介抱のように見えるだろうが、寅山の下半身はさきほどよりも、誇張し、スラックスの中で張り詰めている。本当なら、ところ構わず上下に扱きたいし、馴らしていない最奥の蕾に猛々しい雄をブチこまれたい。すでに、そんなことしか、考えられなくなっているこなんて、自分のきちんとした身なりからは想像されないだろう。
横たわっても楽にはならない。いっそ、この体制のまま、蛇原の雄を夢中でしゃぶれば気が晴れるだろうか。社会的に許されないとわかっていても、冷静な判断をさせなくしてしまう。それが媚薬なのだ。こういった薬の類いは、セックスで用いたことがなかった。
そんなものがなくとも、自分の体は十分快楽を得ることができるし、足りないのなら、金さえ積めば、肉棒を追加することだってできることを知っているからだ。
「社長、電話が鳴っていませんか」
そう指摘され、初めてスラックスのポケットに触れると、小さく振動していることに気づく。体をよじりながら、ポケットからスマホを取りだし、蛇原に膝枕をされたまま、その画面を見つめる。着信は運転手の柴田からだ。そういえば迎えの時間を連絡するといって、そのままだったことを思い出す。
「心配するといけませんから、出られたほうがいいのでは」
その蛇原の言葉に甘えることにして、そのまま電話に出た。
「もしもし、僕だ」
「社長、今、どちらに?」
「これからタクシーで別宅に向かっている。連れもいるので、このまま別宅に泊まる」
「お連れの方がいらっしゃるのですか?」
「そうだ。待機させたままで済まなかった。今日はもう休んでくれ」
「社長っ……」
柴田は何かを言いたいようだったが、寅山は、そのまま電話を切ってしまった。これ以上話せば、息が荒いことに気づかれてしまうし、一緒にいる人間が誰かと問われたら、うまくごまかせる自信がない。
「いいんですか?」
「普段から別宅に泊まることもあるから、問題ない」
「うちの龍崎が来たりしませんか?」
「慎也? それはないだろう」
そう答えたが、まったくないとは言い切れない。もともと龍崎は柴田とも連絡を取り合っているようだったし、もし柴田が不審に思えば、龍崎を呼ぶことも可能性として、低くはない。
「いっそのこと、彼を含めて三人だって構いませんよ」
「冗談。そもそもあいつはノーマルな男だ。そんな悪趣味はないよ」
「悪趣味とは、ひどいなぁ」
その言い方は心から嘆いているわけではないことはすぐにわかる。ノーマルな普通のセックスでは満足できない自分が、いちばんおかしいことは、自覚している。そして龍崎とは、もとから住む世界が違う人間同士だということも。
***
「こんな高級マンションの一室を、ラブホテルのように使っているんですか」
「どう使おうと僕の勝手だ」
「私は御社の羊羮をとても気に入っているんですが、まさかその売上がこんな風に使われているとは思いませんでしたよ」
部屋に向かうエレベーターの中で、蛇原が苦笑する。嫌味と皮肉たっぷりの言いぐさではあるが、この蛇原という男はどこか憎めないところがある。こうして思ったまま、ありのままを寅山に言ってくれる人間は、同級生である龍崎、黒川以外にはあまりいない。
生まれたときから、老舗企業の御曹司という立場上、どうしても自分より年上の人間でも媚びへつらってくる。自分を個として見てくれる人間はいない。自分の後ろにいる父親のことばかり気にしている。だからあの日、自分のことを御曹司だと知りながら、それでも邪険に扱い、肉便器として思うまま弄ばれたことに、怒りを覚えなかったのは、そのせいだろう。その後、自分の体を目当てに入れ替わり立ち替わり、人がやってきて、その最奥に精液は吐くだけ吐いて立ち去るような扱いも、当時の自分にとっては、清々しくて心地よかったのだ。
ふらつく手でスラックスのポケットから鍵を探し、扉を開ける。
ここ数週間ほど、別宅は使用していなかったが、ハウスキーパーが手入れをしてくれているせいか、中の空気は埃っぽさもなければ、独特の蒸し暑さも感じることはない。
日頃、仕事や接待以外で外出することもなければ、金のかかる趣味も持ち合わせていないので、金遣いは荒いほうではないと思う。現に、自分に与えられた給料はほとんど毎月手付かずで残している。しかし、この別宅の維持費については贅沢な金の使い方をしている自覚はある。蛇原の言うとおり、寅山羊羮の売り上げの一部がこんな還元のされているだなんて、誰も思わないだろう。それでもこれは、昼間の顔、すなわち皆が期待する寅山羊羮三代目の社長の顔を守るための必要経費なのだ。
「蛇、原…くん」
自分の後ろで、靴を脱いで玄関に上がった蛇原を縋るように見つめた。ここまで自分は我慢したほうだと思う。すぐにでも欲望を解放させたい衝動を耐え忍んだ。
「こんなところじゃだめですよ。あとで思う存分、かわいがってあげますから」
汗ばんだ額に口づけされて、なだめられる。それは、まるで聞き分けのない子供をあやすように優しかった。けれど寅山は覚えている。セックスの前の、KillerSneakはいつも優しい。ひとたび、行為が始まれば、餌に絡みついてじわじわとその命を奪っていく蛇のように、冷酷に、そして執拗に責め立てていくのだ。
寅山が、奥に続く扉を開け蛇原を招き入れると、そのリビングの光景に蛇原は失笑した。
「あいかわらず、今でも縄で縛られるのが好きなんですね」
蛇原は天井からぶら下がっている麻縄をいじりながら、呟く。
「しかし、個人でSMクラブができるくらいの品揃えですね。ここで、金で雇った男たちにかわいがってもらってるんですか?」
「そうでもしないと、僕の体は平静を保てない……から」
「平静? 面白いことを言いますね」
突然、振り向いた蛇原の手が、力強く寅山の顎を掴んだ。
「ぐっ……」
「肉便器の分際で、突っ込まれる理由を考えるだなんて、笑わせる」
まるで何かのスイッチが入ったかのように、蛇原の口調が鋭利な刃物のように鋭く、冷ややかになる。
「何してるんです。さっさと脱いで、自分で馴らしなさい」
「はい……ごめんな、さい」
その言葉に、体の奥からぞくぞくと震える。期待に胸が高揚した。知っている。この感覚を体が覚えている。彼はこのあと寅山に、望み以上の辱しめをくれて、溢れるほどの精液を注ぎ込んでくれる。
足もとをふらつかせながら、寅山は着ていたスーツを脱ぎ始める。いまだかつて、蛇原が服を脱がせてくれたことなんてないが、自ら脱ぐほうが、自らが嬉々として体を差し出すのだと、いい聞かせられているようで、興奮する。寅山が、下着を引きおろすところまで、蛇原はその様をじっと見つめていた。
「それ、まさかずっと勃起していたんですか?」
「は、い……」
生まれたままの格好になった寅山の、その中心の屹立は上を向いていた。あの会場から今の今まで、この状態は続いていて、すぐにでも両手で狂ったように扱きたい。これは、きっと一度の射精では収まらないだろう。
「そこに座りなさい」
蛇原が指さしたのは、部屋の中心にあるシングルのパイプベッドで、そこにはマットレスだけが敷いてあった。ベッドの四隅にある支柱は、両手足をベッドに固定できるようになっていて複数プレイのときは、ここで拘束されたまま、体中を精液まみれにされるのが寅山は一番のお気に入りだった。
全裸のまま、ベッドに座ると、蛇原がすぐ前まで近づいて、いきなり蛇原の中心を靴下の足でじわりと踏みつけた。
「うあっ……あ、あっ……ンッ」
上を向いているそれを踏みつけた足は、屹立を包んだ皮を引っ張るかのように上下にじわじわと動く。扱かれるのと、似ているようでもどかしく、寅山は無意識で腰をくねらせてしまう。
「気持ちよくなるように動かしていますか? はしたないな、坊っちゃんは」
「ひっ……ご、ごめんなさい」
当然、蛇原にもプレイ中は、自分のことを「坊っちゃん」と呼ぶように依頼をしていた。そのことを覚えていたのだろう。自分の性癖はあの日から変わっていない。
はじめての男が「坊っちゃん」となじったときから、興奮のすべてはそこに凝縮されているのだ。あの男が、そう須藤正親が、こんな風に自分を、肉便器の坊っちゃんに作り上げてしまったせいだ。
「ああ、靴下が坊っちゃんから溢れたぬるぬるのせいで汚れてしまいました。ほら、口で脱がせてくださいよ」
「はい…」
口元に寄せられた靴下を寅山は、唇で布地を食むようにして脱がせる。引っ張ってたるんだ箇所は歯を使うが、傷つけないように慎重に口を動かす。手を使ってもいいと言われていないので、手は自ら後ろに組み、口だけで脱がす。ときに、唾液が自分の太ももに滴る。さきほどまで蛇原が履いていた湿った靴下は、汗ばんだ匂いを放ち、それがますます、寅山を煽った。歯で加えたまま、まるで犬が主人に見せるかのように、蛇原につき出せば、そのまま蛇原は靴下を受けとる。
「はい、よくできました」
蛇原は寅山の両手をつかんでゆっくりと頭上にあげ、そのまま押し倒しながら、ベッドに仰向けに寝かせる。そして受け取った靴下を自らの手にはめて、寅山の屹立を握りこんだ。
「ハァッ……アァツ!」
突然の刺激に悲鳴をあげ、両手の上で縫い留められた両手はマットレスのカバーをぎゅっと掴む。蛇原は構わず、寅山の屹立を上下に激しくしごき始めた。
「や、そんな、強っ……あっ!」
「ご褒美ですよ、ずっと我慢していたんでしょう?」
「出ちゃう…出…アアッ!」
「いいですよ。このあとも、散々イカせてあげますから」
欲望に忠実になる許しをもらえた体は一気に頂点まで駆け昇り、昇天した。弾けるように飛び出した白濁は寅山の腹から胸にかけてを汚す。焦らされてようやく許された欲望は、後を引くように射精し続け、先端からどろどろと液を漏らしている。
「青臭くて、とても濃い。よほど嬉しかったんですね」
「う、あっ……」
こんなに充実した射精はどれくらいぶりだろう。からだはひくひくと震えが止まらない。けれど、まだ欲望は、糸を引くように続いていて、その終わりはまだ訪れそうにない。
「ああ、こんなに汚して」
蛇原はそのまま、まだ緩く勃っているそれを靴下で精液を綺麗に拭い、腹から胸にかけても拭き取るように撫でた。
「ほら、とてもいやらしい匂いだ」
そして靴下についた精液をたっぷりと寅山の頬に塗りつけた。常人では信じられない行為だろうが、今の寅山はこの行為ですらも、いとおしい。
蛇原は靴下を手からはずすと、あろうことか、そのまま寅山の口に押し込んだ。
「んんんっ、んふ、ふっ」
口いっぱいに生臭い匂いと、汗の匂いが広がる。自分の精液を飲まされる経験はあっても、他人の靴下も一緒に口内に詰められるのは、はじめてだ。
「わかってますよ。この部屋は防音ですよね。でも坊っちゃんは泣きわめいてしまうでしょう? 」
息を漏らしながら、寅山は頷くしかなかった。普段の自分には誰もしないであろう屈辱的な責めを蛇原は躊躇なくやってくれる。それが、たまらなく気持ちよいのだ。
蛇原は片方だけ靴下を履いたままの姿で、部屋の中をゆっくりと眺めながら歩き始めた。
「ここには、本当にいろんなものが取り揃えてあるんですねぇ」
部屋の壁際にあったチェストを開けて、ごそごそと中を漁る。
寅山の口の中には靴下が突っ込まれたままで、手は拘束されてはいないが、頭上にあげたままで、次の責めを待ちわびている。
「坊っちゃんの欲しがり屋さんの孔は、指じゃ満足できないからなぁ」
期待でヒクつく寅山の後孔は、時折無意識にきゅっと締める、緩めるを繰り返している。
ここに早く確かなものが欲しい――
「でも、今日はね、今まで貴方にしたことのない最高の絶頂を味あわせてあげたいと思ってるんですよ」
振り返った蛇原の手には、指をはめる穴の開いたS字型の アナルプラグとチューブ型のローションを持っていた。ジュル、とローションのチューブをアナルプラグに捻り出し、再び寅山の元に戻ってきた。
「おむつをかえるみたいに、自分で膝を抱えてごらん」
まだわずかに震える膝を、寅山はゆっくりと抱くように抱える。僅かに硬い中心と、そしてヒクつく蕾が蛇原の目の前に露わになる。
「年をとっても、ここは綺麗なままですね。白い肌に充血した赤さがよく映えて美しい」
口に靴下を詰められているので返事はできないが、こんな格好が平気なはずはない。そんなところを他人に見られることはないし、綺麗と褒められても嬉しいどころか、恥ずかしさを煽られるだけだ。
「さあ、いい子だから楽にしてね」
再び優しい言葉を囁く蛇原に戻る。じゅぶ、とローションが卑猥な水音をさせながら孔に侵入する。指一本程度なら余裕で受け入れるその場所に、せいぜい指2本程度のプラグは、最初は異物感があってもすぐに馴染む。
「わかってますよ、こんなもんじゃ満足できないことくらいはね」
じゅ、じゅ、と蛇原がゆっくり往復させるプラグに合わせて、体の力を抜いていく。このあたりの加減は寅山にとって造作もない。
今まで、男の尻にはじめて突っ込むという人間を相手をした数だって計り知れない。自分で馴らして、ずくずくに緩んだそこを差し出したことだってある。そのへんの女よりも自分の孔のことは理解している。
「今でも、ここが好きですか?」
「ンンッ、ふっ……ううっ」
入り口の浅いところを引っ掻くように擦られ、思わず甘美の声をあげてしまう。
寅山がそうだったように、蛇原だって数多くの男と体を重ねてきただろうが、自分のナカのことを今でも覚えていてくれたことは、単純に嬉しい。セックスのパートナーとして、蛇原は合格点以上だと思う。ただ、何をされるのか、予想できない。それが満足と恐怖の背中合わせであるということを、蛇原が理解しているのか、いないのか、寅山には計れないでいる。
「貴方のその物欲しそうな顔がとても興奮しますよ」
蛇原がぺろりと舌なめずりをする。蛇原は口でさせたり、手でさせたりということはめったにない。辱しめを受けたり、響き渡るほどの叫び声をあげたり、そんな悲痛な表情や仕草で興奮するらしく、自分の服を脱ぐこともほとんどない。
今も、カチャカチャとスラックスの前をくつろがせているので、着衣のまま挿入するのだろう。
「もう媚薬の効果なんて切れているでしょう。よかったですね。こうして私と繋がれる正当な理由ができて」
ふるふると首を横に振る。否定できないとわかっていても、それでも悪あがきをしてしまうのは、理性が僅かに残っているせいだろう。
「貴方をはじめての絶頂に連れていってあげます。道具もいらない。私だけで、それが叶うんですよ」
不適な笑みと共に、ローションでふやけた秘部にそっと硬い先端が当てられる。いよいよ、待ちわびた確かなものがやってくる。
「貴方の中は久しぶり、ですね……!」
「……んんっ、んん!!」
めりめりと体が引き裂かれそうになる感覚は決して馴れることはない。けれど、その痛みが快楽に変わっていくと知っているからこそ、耐えられるし、受け入れてしまう。腰を揺らしながら徐々に穿たれていく楔に、抗うことはできず、ただ貫かれていくのみなのだ。
「ああ、坊っちゃんの中は最高だ。よほど嬉しいのかな、締め付けてくる」
「んっ、ん、んふっ」
蛇原のそれは決して大きくはないけれど、挿入に至るまでに寅山の体は満足していることが多く、中を知り尽くしたそれでひっかきまわされるのはたまらなく気持ちよかった。
いつも余裕そうな蛇原の顔が、ふと快楽に引っ張られて艶かしくなるのがたまらなく好きだった。
――好きだった。
自分はきっと蛇原に肉体的な依存をしていたと思う。あのとき放置されて、軽くパニックを起こし、蛇原と連絡できる術を全部立ちきったあとで、その依存に気づいてしまった。もう誰も自分を酷く扱ってくれる人間がいない。自分が築きあげたわけではない寅山羊羮の直系という血筋だけの価値を、大切にする人間が、自分に媚びへつらうだけの世界しか、残されていなかったことに絶望をしたのだ。
再び、蛇原とこうして体を重ねる関係になったら、もう金で誰かと雇って肉便器になることなんてしなくてもいいのかもしれない。そこにあるのは肉体の繋がりだけだったとしても、蛇原は寅山羊羮の社長である自分は必要としていない。それなら、いっそそれだけでいい。
「中に、出されるのが、今でも好きです、か?」
揺さぶられながら、寅山はこくこくと首を縦に振る。溢れるくらいに大量の精液を注がれるのが好きだった。股の間を白い液が伝うのが、汚された気がして嬉しかった。
激しくなる腰つきに、寅山も徐々に絶頂に近づいていた。緩やかに訪れそうなそれに、久方ぶりの行為が普通なものでも悪くないと思い始めていた。
「まさか、ただのメスイキで終わらせたりはしませんよ」
蛇原の両手が、寅山の首にかかる、ぐ、っと喉仏を押さえられ、気道が塞がれる。口は、靴下が詰められたままだ。
「んんんっ!……ん!」
鼻でかろうじて息ができるが、何より激しく腰を動かされているので、呼吸が追い付かない。首を圧迫されながら、腹の中をかきまわされ、脳内が錯乱する。無意識に手を伸ばし、蛇原の腕を掴むが、力が入らない。
――笑ってる?
薄目を開けて視界に入った蛇原の顔は、とても楽しそうだった。その瞬間、かつて蛇原が、自分を楽しそうに目隠しをしていた最後の光景が浮かんだ。いつだって蛇原は楽しんでいる。それは相手を気持ちよくさせるため、ではなく、自分の快楽の追求のためだ。
そうなのだ。お互い、自分の快楽のためだけに知り合い、繋がっただけの関係なのだ。だから、あのときのように寅山が誰にも見つかることなく地中で力尽きても、今こうして首を絞められて死んでも、楽しければ蛇原は満足なのだ。
もう、体の内部から壊れそうだというのに、気づけば射精していた。腹にほとばしる液を感じ、秘部の奥も狂いそうになるほどに気持ちよく、がくがくと震える。
「まだですよ、まだ……これからが最高に…」
もう蛇原の言葉の最後は聞き取れなかった。意識が遠のいて、視界が狭くなる。快感というより昇天というのが正しいのだろうか。全身の快楽が昇華していく。天に召されるというのはこういう感覚なのか。気が抜けていくのに、抗うことができなくなった。そのときだった。
「そのへんにしとけ」
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