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まあるい気持ち【瑠生】2
大崎のラーメン屋は、俺ん家より1駅先の商店街にあった。夕方の店は、仕事帰りのサラリーマンを迎えるべく準備に追われている。
「ただいまー、父さんラーメン食わして」
店に入るや否や、開口1番に大崎はラーメンを催促する。忙しいのに申し訳ない。俺が焦ると、大崎の両親がカウンターから顔を出した。
「玲太が友達を連れてくるとは珍しい」
「本当ね。店に顔を出すのも珍しい。クラスメイト……かな。可愛らしいイケメンね」
2人して珍しいを連呼している。
「ねえ、父さん、宮下琉生(みやもとるい)君。覚えてる?」
「宮下琉生君って、あの宮下君??サッカーの?え、本物??ちょ、待って」
この一家は俺の何を知っているのか。話についていけず、自己紹介する隙も与えられなかった。
お父さんは感激の眼差しで俺を観察している。
「宮下君……だ。本物じゃないか……私は小学校から君を応援しててね、昔玲太がサッカーをかじっていた頃から君はピカイチだったよ。誰も寄せ付けない高速ドリブルは神がかっていた」
「…………あの、俺は別に有名人とかではないので……サッカー辞めましたし……」
サッカーを辞めて早や2ヶ月。哀れみの目に晒されることには慣れていた。あんなに才能があったのに可哀想だと、寄り添うフリをして心で蔑む同級生や先輩に辟易していたからだ。
「今までやってきたサッカーは、絶対無駄にならないよ。君の財産だ。寧ろ、身体がうずうずしてるんじゃないの。怪我は治ってるみたいだし、蹴りたいとは思わないの?」
「それは、時々……」
嘘だった。本当は無性にボールを追いかけたくてしょうがなかった。ボールは毎日夢にまで出てくる。サッカーしかやってこなかったけど、俺にはサッカーがある。
前居たチームのコーチに相談しようかと何度も思ったが、腫れもののように扱われる自分が哀れで踏み切れなかった。
サッカーを過去と片付けるには、時期が尚早だ。
「じゃあ、いい所がある……」
「ちょっと父さん、それは俺が今からゆっくり説明する。黙ってラーメン作ってて!!」
「はいはい、分かった」
俺と大崎はカウンターの隅に座った。店内に充満した美味しい匂いにお腹がぐうと鳴った。
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