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まあるい気持ち【瑠生】3
「……フットサル?」
「そ、俺の従兄弟が経営してんの。小さなフットサル場なんだけど、小学生のスクール後は空いてて、夜は好きにボールを蹴らせてくれる。一応、フットサルチームもあるから、試合もやったりできる。宮下どう?やってみない?」
「……………………」
「1度、見学に行こうよ。リハビリだと思って。軽い気持ちでいいんだ」
「………………でも……」
「宮下を知ってる奴は居ない。みんな社会人のオッサンばかりだ」
「大崎はフットサルやってんの?」
「俺は、宮下とは違って才能が無いから、中学までやってたけど、今は趣味で続けてる。うちの高校でレギュラーなんて至難の業だし、だいいちサッカー部には入れても貰えないよ」
大崎は俺とフットサルがしたいと、切実に真剣な目で説得してくる。
ラーメンの湯気で大崎がボヤけて見えた。お腹も満たされて、何だかとても幸せな気分になる。
「………………やってみようかな」
「本当にっ!!決まりだ。早速従兄に連絡する」
正直、俺を知らない人達の中で、身を置きたかった。『サッカーから挫折した宮下琉生』は、辛うじて受け入れたものの、『傷付いて周りから腫れもの扱いされる宮下琉生』は、痛すぎて無理だった。単なる我儘と言われればそうかもしれない。でも、齢16の俺には精一杯の逃げだった。
「早速、明日はどう?ってか、サッカーのトレーニングシューズは持ってる?」
「トレシューは無い、かも……」
サッカーを辞める時に靴関係は全て処分していた。
「レンタルもあるけど、買いに行ってもいい。宮下に任せるよ」
「俺、できれば買いに行きたい」
「オッケー、いいやつを選ぼう」
何故か大崎の前では素直に自分の気持ちを出すことができた。サッカーありきの俺を知らないクラスメイトと、別の形で新しく繋がろうとしていることがとても嬉しかった。
明日の放課後、靴を買いに行ってから、フットサル場へ行くことになった。
この日を境に俺の世界が大きく拡がる。
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