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第1話
「……災難だ」
あれから森の中を歩き続けて、俺は散々な目にあっていた。
歩き始めて早々に、普段なら絶対につまづいたりしない小石につまづき顔面から前に倒れ、その勢いで左手に持っていたバケツは、パキッというプラスチック特有の音を響かせ割れる。
顔面から倒れた俺は鼻の頭を擦り剥き、血が滲む。
いてて、と言いながらモップを支えに立ち上がった瞬間、モップの持ち手が半分に折れ、また顔面から地面とお友達になってしまった。
「次から次へと不幸なことが起きるな…、モップの持ち手が半分に折れるのは予想外すぎる」
バケツは使い物にならないと判断し、不法投棄ごめんなさいと心の中で謝りその場に置いて行くことを決め、折れたモップの先の方は身を守る術に使えるかもしれないと思い、持って行くことにした。
血が滲む鼻の頭を手の甲で拭い、再度気合いを入れて一歩踏み出し前を向いた瞬間だった。
進もうとしていた道なき道の先に、白い塊が見えた。
石か?と思ったが、よく目を凝らしてみると白い塊から耳らしき物が生えている。
遠近法で小さく見えるが、何となく大きそうな気がする。
「……ま、まさか白い熊さんとか、そんなこと無いよなー…、シロクマなんて森に居るはずないし、もしシロクマだったとしてもあんな大きいのは…」
口の端を引きつらせながら、モップを握る手に力を込めジッと白い塊を見つめる。
どうやら、白い塊さんも俺の出方を見ているのかその場からまったく動かない。
木々の隙間から漏れる太陽の光に反射され、白い塊の周りがキラキラと光っている。
初めて見る動物らしき生き物に、心臓はバクバクで手は震えていたけど、不謹慎ながらその光景はとても綺麗なものだった。
「………綺麗だな」
思わず、思わず呟いてしまった。
怖いとか、背を向けて今すぐにでも走り出したいとか、色んな思いが頭の中をぐるぐる回っていたけど、そんな思いが吹き飛ぶ程、綺麗だった。
俺が呟いた瞬間、ピクッと白い塊の耳が揺れた気がした。
今まで座っていたのだろうか、ゆっくりとした動作で立ち上がり、ぐるる…と喉を鳴らす。
「……シロクマじゃないじゃん、…あれ、どう見ても俺にはオオカミにしか……」
立ち上がったのは、オオカミだった。
そう、某有名なアニメ映画の女の子が乗っていた生き物っぽい感じで、かなり大きい。
俺の知るオオカミの大きさじゃない。
目の前のオオカミは、何倍も大きい。
「……ぐるるるっ…」
「え、ちょ…待て、す…すてい、ステイ!俺、まだ死にたくないから、お願い…動かないで!」
何を思ったのか、いや、明らかに俺を攻撃しようと決めたのか、オオカミさんは唸り声をあげると、ゆっくりと俺の方に近付いてきた。
元々、そんなに距離は離れていなかったのでオオカミさんと俺の距離は直ぐに縮まる。
俺は冷や汗が止まらず、モップを握る手にも大量の汗を掻き、災難続きな俺はまたしても自分で災難を呼び起こしてしまった。
汗をびっしょり掻いた手のおかげで、モップの柄が滑り地面に落としてしまったのだ。
あ、と思い地面に視線をやった瞬間、オオカミさんが俺に向かって走り出したのだった。
「……っ!う、うわぁあ…っ、…!」
こちらに全速力で向かってくるオオカミさんに、俺は防御やら受け身やら何もとれず、まともに真正面からぶつかってしまい、背中から地面に倒れる。
倒れた瞬間の痛みを想像して、思わずぎゅっと目を瞑ってしまったが、後頭部に想像した痛みはなく、何故か後頭部に人の手のような感触がある。
「………ん?」
いや、おかしくないか?
オオカミさんに襲われたはずだ。
ほんの少し前まで、目の前に居たオオカミさんが猛スピードで俺に向かって突進してきて、ぶつかった衝撃で後頭部打って死ぬ!って思ったのに、まったく痛くない。
誰かに支えられているかのように、後頭部に柔らかい感触がある。
俺の間違いでなければ、これは人の手だ。
混乱してきた俺は、恐る恐る自分に覆い被さっている人らしきものを確認しようと、瞑っていた目を緩める。
目を開けた瞬間、至近距離に居たのは……
「どうしてこのような場所に人間が居る…、…おい、おい、…聞いているのか?」
銀色の髪、赤い目、…頭の上にある髪色と同じの銀色の耳、…耳……の位置違くない?
至近距離に居たのは、先程のオオカミさんではなく人間離れした、動物っぽい耳が生えているイケメンさんでした。
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