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第15話
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俺がコウちゃんに対して恋心を抱いたのは八歳の時だった。
それまでは近所に住む悪そうなお兄さんってイメージだったけど、生まれた時からコウちゃんの事を見てきたから、見た目は怖そうでも、本当は面白くて優しい事を知っていた。
俺の両親は共働きで、父親の方は三交代勤務で生活時間帯は不規則。母親も出張が多い仕事をしていたので、両親が不在になる日はよくコウちゃんの家に預けられていた。
コウちゃんは俺によくしてくれた。一緒に風呂に入ったり、一緒に寝たり。
その時は歳の離れたお兄さんが出来た気分がしたけど、その気持ちに変化が出たのは、コウちゃんが高校三年になった時だった。
小学二年になったばかりの頃、コウちゃんの家に女の人がいた。コウちゃんと女の人はとても楽しそうに玄関で話していたのを見て、コウちゃんが女の人に取られたと思った。実際にその女の人は当時付き合っていた彼女だとわかった。
仲のいいお兄さんが他の人に取られるのが嫌だと、その感情は子供の独占欲なのだろうとも思った。
女の人は次の日も、その次の日もコウちゃんの家に来ていた。女の人がいる間、俺はコウちゃんの家に行けなかった。とても辛いと思った。コウちゃんと遊べないのはもちろんだけど、女の人と話すコウちゃんは見たことない表情をしていた。
それがなんだか許せなかった。俺には向けられない笑顔。その笑顔を俺にも向けてほしいと思った。
これ以上コウちゃんを取られたくない!そう思った俺は、その日コウちゃんの家に遊びに行った。お隣なので、玄関を出て数歩歩けばすぐコウちゃんの家だった。けど、その日コウちゃんの家までの道のりがすごく長かったのを覚えている。
玄関を出てすぐ、コウちゃんの家に向かって歩こうとしたら、コウちゃんとその女の人がキスをしていたのを偶然にも見てしまった。
俺はすぐに引き返し、玄関の扉を閉めてから泣いた。
その時自覚したんだ。
俺はコウちゃんを好きで、誰にも渡したくないって……
夜になり、両親が不在になるからとコウちゃんの家に預けられた。
正直コウちゃんの顔をまともに見られなかった。あの時、女の人とキスをしていたのが脳裏に焼き付いていて、コウちゃんの顔を見るたびに思い出してしまう。
俺の態度がよそよそしいのに気が付いたのか、コウちゃんが俺に言ってきた。
「どうしたんだ伊織?なんかふて腐れてるみたいだけど、何か嫌な事があったのか?」
コウちゃんが女の人とキスをしていたのが嫌だったと、俺は告げられなかった。だから俺は「何でもない」とだけ言った。
「なんかあったなら言えよ。ほら、こっちに来いよ」
いつものように抱きしめられて眠る。コウちゃんの匂いが俺の鼻腔をくすぐる。とても安心出来る。意を決した俺は顔を上げてコウちゃんを見た。
「ねぇコウちゃん……俺、コウちゃんの事好きだよ」
「なんだよいきなり。俺も伊織の事好きだよ」
違う……コウちゃんの好きは俺と同じではない。子供ながらにそれを悟った。
どうしたら俺の好きがコウちゃんも同じになるのだろうか?子供の考えでは出口が見つからなかった。
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