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第33話

 中沢と別れ一人実家に戻る。まだ夜の十時で、両親も起きていた。飲みに行くことも連絡していたからどうこう言われる筋合いはないんだが、帰った瞬間に母親に文句を言われてしまった。 「もぉ!ずっと電話してたのに!」 「はっ?どうしたんだよ」 「伊織ちゃんが来てて、浩二の事待ってたんだけど……」 「そうなの?」  気が付かなかったが、確かにスマフォの画面には両親からの着信が何件もあった。 「それで伊織は?」 「まだ帰ってないんじゃない?もしかしたらあんたの部屋にいると思うけど」  飲みでの話題が伊織の事だっただけに、こうして会うのは気が引ける。だが今日はまだ平日で、明日も学校あるだろうし、俺だって仕事がある。なのでそろそろ帰さないといけない。それにしてもうちの両親は伊織に対してつくづく甘いんじゃないかと思う。  俺は二階に行き、伊織に帰るよう促す。 「伊織?」  部屋は妙に静かで、扉を開けると部屋の中は薄暗かった。母親が気が付かなかっただけで帰ったんじゃないのかと思ったが、電気をつけると伊織は俺のベッドで寝ていた。  あどけない表情で眠る伊織の姿にドキッとしてしまった。 「お、おい伊織。起きろよ」  変な気持ちを抑えつつ、俺は伊織の肩を揺すった。だが伊織は一向に起きる気配がない。 「部活とかで疲れてるんだろうなぁ……」  こういうとこはやっぱ高校生だな。俺自身は高校時代に部活なんてしてなく、アルバイト三昧に遊び三昧だったから、こういう普通の高校生活を送る伊織が新鮮に見えた。そう言って感動もしてられない。伊織を起こさないと。 「おい伊織!お前明日も部活とかあるだろ?さっさと起きろ!」 「う……ん……」  一瞬眉をしかめたが、まったく起きない。これは困ってしまった。 「仕方ないなぁ……母さんとかに言っておくか……」  立ち上がって俺は下にいる母親に事情を説明し、伊織の両親に連絡をしてもらった。これは朝までしっかりおやすみコースだろう。泊まらせる以外の方法がない。  半分呆れつつも俺は風呂に入り二階に上がって寝る準備をする。  俺のベッドは伊織に占拠されてしまったので、俺は床に布団を敷いて寝る事にするが、チラチラと視界に入る伊織がやっぱり気になって仕方ない。 「寝ている時は大人しくて可愛いのにな」  あんな事がなければお互いただの幼馴染だっただろう。けど、中沢にも散々言われ、俺自身も伊織を意識し始めている。ただ寝顔を見ているだけなのに、なんだか伊織に触れたくなってしまった。 「伊織……」  サラサラの黒髪を撫でる。スッと指の間から零れ落ちる髪を何度も掬ってみた。いつもは伊織からだが―――「とは言っても一度は俺から促された事はあるが―――俺の方からキスをしてみたいと思った。寝ているから気が付かないだろう。  そっとその唇に近づき、伊織の唇にキスをした。  伊織から離れた後にハッとした。俺は何をしてるんだ?してみたくなったからと、寝ている伊織にキスするって。これじゃ俺、伊織を好きじゃないか。  もう何度も疑問として回っていたものが再びぐるぐると回りだした。  ここまで来たら認めるしかないのか?俺は伊織が好きだと……なんだか抜け出せない迷路に迷い込んだ気分だ。  これ以上は何も考えたくない!そう思った俺は電気を消して寝る事にした。

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