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第34話

「コウちゃん?コウちゃん?」 「んあ?」  瞼が重い。だがどこかで目覚ましのアラームが鳴っている。朝だろう。しかも伊織の声も聞こえたので、俺はなんとか目を覚ますと、俺の顔を覗き込むかのように伊織が見ていた。すごくドキッとした。 「おはようコウちゃん」 「お……おはよう……」 「昨日コウちゃんの事待ってたんだけど、寝ちゃったみたいだね。ごめんね。俺がベッド占拠して」 「い、いやいい」  起き上がった俺は、うるさく鳴るアラームを切って背伸びをした。 「お前朝部活じゃないのか?」 「うん。今から家に帰って風呂入らないと。それじゃ、おじゃましました」  何事もなく家を後にした伊織。俺は寝込みの伊織にキスしたんだと、いまさらながらに恥ずかしくなった。顔が火照る。あぁ、認めてしまった後だと、伊織の顔がまともに見られない。  二十八年生きてきて、同性の、しかも幼馴染の未成年に恋をしてしまったなんて。どう考えても笑いのネタだな。 「って……俺もぼんやりしてる暇はないな」  俺だって仕事だ。急いで支度をし出勤をした。  研修期間も終了し、本格的に交代勤務に入る事になったが、しばらくは常駐勤務にも慣れておけとのお達しで、今は常駐勤務と同じ時間帯での仕事をしている。出勤は八時半から夕方五時まで。五時以降は特に予定もなく今日も早々に家に帰る事にした。  車での通勤をしている俺は、会社から車だと十五分もあれば行き帰りが出来る。今日も自宅から少し離れた駐車場に車を止め、自宅の方へ歩いて向かったが、伊織の家の前で制服を着た女の子と、伊織が一緒にいた。  あの制服はたしか近くの商業高校のセーラーだったような……  俺は遠くから二人の様子を見ていた。何故見る必要がある。普通に家に行って「よぉ!」と言って家に入ればいいだけの事だ。なのにそれが出来ず、近くにあった電柱の陰に隠れてしまった。  思春期のガキか!と自分で自分にツッコんでしまった。  二人は楽しそうに会話をしている。伊織はともかく、女の子の方は、少し頬を赤くして、上目使いで伊織を見ている。あれは伊織に気があるなってのがすぐにわかった。  今時珍しい黒髪のストレートで肩まである。小柄で華奢ないかにも女子って感じの女の子だ。  年頃の男女で、いかにも青春を謳歌してますって感じの雰囲気だ。これが本来の正しき風景なのではないのか?そう思った瞬間、ツキリと胸の辺りが痛くなった。  所詮男同士、ましてやあっちは十も下のガキなんだ。きっと後悔して俺を捨てる日が来る。  俺は女の子が帰り、伊織が家の中に入るまでその場から動けなかった。

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