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第35話

「浩二!伊織ちゃんが来たわよ!」  下から母親の声が聞こえた。どうせ待てとかダメって言っても通すだろうから無視をした。  伊織と女の子が話している現場を目撃したその日の夜に伊織が来るとは思わなかった。どういう顔して会えばいいんだ?てか向こうじゃこっちの事に気が付いてないんだし、普通にしてたらいいんだろうが。そんな事を考えていると、ガチャリと扉が開いた。 「コウちゃん?今大丈夫?」 「あ、あぁ……」  普通に。普通にしてればいいんだ。そう自分に言い聞かせるが、伊織が部屋に入り、ふわっと伊織の匂いが俺の鼻を掠めた瞬間、身体の底から熱が上がってきた。やばい…… 「昨日はホントごめんね。待ってたのに寝ちゃって」 「いや俺の方こそ悪い。母さんの電話にも気が付かなかった」 「へぇ……昨日は飲み会とかだったの?」 「まぁ、中沢と飲みに行ってたんだ」 「中沢先生と?女の人とかじゃないんだ」 「違う違う」  否定をするが、伊織はどこか疑いの眼差しを俺に向けている。さすが年下。しかも十代によくあるガキ臭い嫉妬だなぁと思った。でもなんだかそれが嬉しい感じがした。こいつは俺の事が本当に好きなんだと安心する。  けどその気持ちも直ぐに打ち消された。夕方の一件が頭から離れない。 「どうしたの?」  俺が急に目を逸らしたからか、伊織が首を傾げて俺の顔を覗き込んで来る。出来れば止めてほしい。心臓に悪いし、俺自身も顔が火照ってるのがわかる。 「コウちゃん?」  俺の膝に手を置いた伊織。伊織の触れた場所が熱い。ドキドキとうるさい鼓動を誤魔化そうと、俺は伊織の胸を押して放した。 「コウちゃん?どうかしたの?」 「なんでもない……それよりもどうしたんだ?昨日も今日も来たって事は、何かあったんだろ?」 「別に。ただコウちゃんの顔が見たかっただけ」  どうしてだろうな?伊織の事が好きだと思った瞬間から、伊織の何気ない言葉や仕草、俺に対する態度とかにドキドキしてしまう。これじゃまるっきり初恋中の女子だ。 「俺の顔なんて腐る程見てるだろ?それにこんなおっさんよりも、可愛い顔した女子の方がいいんじゃないか?」 「どうしてそんな事言うの?」 「いや……別に。たまたま夕方、お前と女子高生が話してるの見て……」  俺は何言ってるんだ?自ら墓穴を掘るとか、ありえないだろ! 「あぁ、見てたんだ」

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