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第39話
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伊織と恋人同士になって、そしてこっちに戻って来てから初めての休日。俺は伊織の家にやって来た。
「いらっしゃいコウちゃん。って言ってもお隣同士なんだけどね」
家から数歩の滝沢家。正直俺の記憶の中でこいつの家におじゃましたのはそう多くない。たいていは両親の都合で俺の家に来ていたのもあるから。
「俺の部屋わかるよね?」
「あ、あぁ……」
「お茶持ってくから先行ってて。コーヒーでいい?」
「あぁ」
短い返事をして俺は二階にある伊織の部屋へ向かった。
伊織の部屋はとても簡素で、ベッドに机、本棚にクローゼット以外は何もないシンプルな部屋だ。しかも漫画の類はなく、どれも参考書やら専門書のような本ばかりが本棚に並んでた。
「ホント勉強とか出来るんだなぁ……」
遊び呆けてた己の学生時代とは大違いだ。壁に立てかけるようにしてテニスラケットもある。どうやら今は中間試験の真っ最中で部活も休みだとか。むしろ勉強しろよ!と言いたいが、俺自身した覚えもないし、伊織の頭なら一晩見れば出来るんだろう。
そんな何でも出来る今をときめく美少年が俺を好きって言うのも信じられない。
「コウちゃんが俺の家に来るってなんだか新鮮だね」
いつの間にか部屋に来た伊織。俺はドキッとしてしまった。まぁ、ドキドキは伊織の家に来る前からしてたんだが。
もうどう考えても初めて彼氏の家に来た彼女の気分なんだけど。
「どうしたの?座ったら?」
「あ、あぁ……」
完全にカチカチになっている俺は、伊織の隣にちょこんと座った。なんだなんだ?この緊張感は尋常じゃない。どのみちこいつの家に来たって事は、間違いなくセックス込みって事だし。
もちろんそんな俺の事などお見通しの伊織は、さっきからクスクス笑っている。
「コウちゃん意識しすぎじゃない?」
「ば、馬鹿!別に意識してないし!」
「声上ずってる」
「うぅ…」
本当に落ち着かない。こんなんじゃ俺のこれまでの戦歴など意味がないじゃないか。
「コウちゃんってホントわかりやすいよね。今時の女子高生でもそんな初心な反応しないよ」
「わ……わるかったな……!こういうのには慣れてない」
「別に揶揄ったわけじゃないよ。怒ったなら謝るよ。ごめんね」
そう言って伊織が俺の頬に軽くキスをした。それだけで俺の体温は急上昇だ。俺はどうやら、思った以上にこいつの事が好きになってしまったみたいだ。
「もしかしてコウちゃん。俺がこのまま押し倒すと思った?」
「健全な男子高校生ならそうなるんじゃないのか?」
「まぁ、普通ならそうだろうね。けど、俺とコウちゃんはそうじゃないでしょ?」
「どういう意味だ?」
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