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これからの未来-1
夏も終わり九月になった。
この時期になると本格的な就職シーズンになる為、ほとんどの生徒や先生は慌ただしくなる。
俺もそろそろ大学入試に向けて本腰を入れなくてはいけない。普通高とは違うので、この時期にこんな事を言っているともう遅いと思う。けど行く大学も決まっているし、その為に部活もまじめにやって勉強だってそれなりにやっていた。
担任からも「滝沢ならなんとかなるだろう」という曖昧なお墨付きだ。
「よっ、滝沢!」
「中沢先生」
ひらひらと手を振りながらやって来たのは中沢先生。実習授業以外の接点はないが、コウちゃんの親友という事もあり、プライベート方面ではいろいろと話をしているし、唯一俺とコウちゃんが恋人同士というのを知っている。
「なんだよ。相変わらず浩二と仲良くやってるのか?」
「おかげさまで。それよりもコウちゃんからお土産もらいましたか?」
「おい!なんのオチもない温泉まんじゅうもらったぞ」
つい先月、俺とコウちゃんはとある秘境の温泉宿に旅行してきた。山間にある場所だったので、少し歩かなくてはいけなかった。普段運動してないからとコウちゃんは文句言ってたけど、そうは言いながらも楽しんでくれていたようなのでよかった。
「ところでお前の進路、香川先生から聞いたんだけど、いいのか?」
香川先生は俺の担任だ。そして担任を通じて俺の進路を聞いた中沢先生は少し困り果てたような顔をしていた。
「大学へ行くのは、ここに入学する条件みたいなものだったので気にしてませんよ」
「いや、そうじゃなくて……」
中沢先生が何を言いたいのかはわかる。
「大丈夫です。ちゃんとコウちゃんにも言いますし、コウちゃんもわかってくれると思いますから」
「だといいけどよぉ……」
何かあったのだろうか?中沢先生は困惑しつつも言葉に困っているようだ。
「何かあったんですか?」
「いや別に、これって事はないけど、あいつさ、お前が思っている以上にお前に惚れてるみたいだから少し心配で……」
コウちゃんが?と一瞬思ってしまったが、それはそれで嬉しい。まぁ、本音を言えば俺の前でそう言ってくれたらいいんだけど、コウちゃんはそういう事をなかなか言ってくれない。態度はもろに出てるんだけどな……
「大丈夫です。ちゃんとコウちゃんとも話しますから」
こればかりは仕方ないし、コウちゃんに理解してもらうしかない。年上で、しかもちゃんと職に就いてる人と学生では必ずこんな日も来る事はわかっていた。
ましてやここは地方都市だ。都会のようにいい大学が集中しているわけでもないのだ。
俺は学校が終わってコウちゃんの家に行くことにした。今日は三時まで仕事だから、もう家にいるだろう。
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