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これからの未来-5
あぁ、やっぱり中沢先生も気が付いてるんだと思った。
コウちゃんは表面上はいつも通りだ。けどそのいつもが無理をしているようにも見えるのは気のせいではなかったみたいだ。
「あいつ仕事もぼちぼちやってるみたいだし、悩みの欠片はそっちじゃなさそうだな。大方お前で何か悩んでるんだろうけど」
「ですよね……俺もそんな気がしました」
「まっ、なんとなく何に悩んでるのか想像は出来るけど、ここは大人がなんとかしてやるから、お前は普段通りにしてろよ」
「はぁ……」
正直俺がどうにか出来るものならしたいのだが、きっとはぐらかされるのが目に見えてるので、ここは中沢先生に任せた方がいいだろうと思った。
****
「よっ!淫行犯罪者!」
のっけから喧嘩腰で電話してきたのは中沢だった。
「お前今暇してる?暇してるなら飲まないか?」
「それはいいけど、お前なぁ……俺を犯罪者扱いするな!」
「いやいや、あながち間違ってないだろ」
電話の向こうで中沢が盛大に笑っているのが腹が立つ。この礼は後できっちりするとして、俺は中沢と待ち合わせ場所と時間を言って電話を切った。
「矢吹さんお疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
ちょうど仕事が終わったのもあり、同じ番の人間が次々と退社していく。俺も急いで着替えて待ち合わせ場所に行くことにした。
どうせ酒を飲むので、一旦家に帰り、車を置いて歩いて行こうとしたら、帰宅途中の伊織と鉢合わせてしまった。
「おう!お帰り」
「ただいまコウちゃん。今からどっか行くの?」
「あ、あぁ……今日は会社の飲みなんだよ」
つい伊織に嘘を言ってしまった。中沢と飲みに行くだけなんだから気にする必要もないのに、どうしてそんな嘘を言ってしまったのだろうか。だが伊織はさして気にしている感じもなく「飲みすぎないでね」と言って家に入った。
最近俺がおかしい。自分自身でわかるのだから、もしかしなくても伊織は気が付いてるだろう。あいつは何かと察しがいい。
どうしてか、伊織を見てると胸が苦しくなる。それは伊織が俺に進路を言った時からだ。いつかこうなる事はわかっていた。わかっていたのに、どうしようもないほど胸が苦しいんだ。
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