54 / 63
これからの未来-7
本格的な冬のシーズン。そして受験の季節がやって来た。あれから伊織と会う機会が少ない。それもそうだろう。俺が避けるようにしているのもあるし、向こうも向こうで学校に遅くまでいて勉強をしているそうだから。
もう数日で一年の中で恋人達にとっては大切なビックイベントが到来するが、生憎と予定がない。伊織からも何も言わないし、俺もわざわざ受験生にクリスマス過ごそうだとか、ガキでもないんだから言わない。
結局今年は一人かと思った。正確に言えば今年もなのだが。去年のこの時期は離婚調停に入っていたので、元嫁とは過ごしていない。去年は何も考えられなかったのもあり、一人で家に引きこもってたなぁっと、カレンダーを見ながら思った。
「あっ、浩二!ちょうどよかった!」
「なんだよ」
母親が俺に声をかける時は、たいていろくな事がない。また何かお使いでも頼まれるかと思った。
「今年のクリスマスね。父さんと母さん熱海の方に行ってくるから」
夫婦円満で何よりだ。と言うよりも今年はちょくちょく一緒に出掛けるな。こっちはクリスマスの予定すらないのに。
「わかったわかった。土産にまんじゅうは簡便な。もっと美味いのがいい」
「はいはい。そういうあんたはロンリークリスマス?」
そんな横文字どこで覚えたんだよまったく。
「そうだな。誰も相手してくれないだろうから一人のんびりしてるよ」
「三十路前なのに枯れてるわねぇ……まぁ、伊織ちゃんも受験であんたの相手してくれないから仕方ないわね。あぁ、そうじゃなくても伊織ちゃんくらいの美少年なら彼女の一人や二人いるか」
今一番に聞きたくない名前を……それに彼女じゃなくて彼氏ならあんたの目の前にいるぞ!そう言いたくても俺達の関係は誰にも言えないから仕方ない。
恋人のイベントで、主に女の方がキャーキャー言ってるようなクリスマスだ。だからどうって事もないはずなのに、どうしてだが、気が滅入って仕方なかった。
結局クリスマスの日がやって来た。町はクリスマスイルミネーション一色なのに、俺の心だけは何の明かりも灯らない。
伊織からの連絡がないまま迎えた朝。その日は朝から雪が降り、ニュースでもホワイトクリスマスと言っていた。だからどうだと言うのだ?雪なんてただはた迷惑なだけだ。それに俺は仕事だ!息巻いてみるが空しいだけだった。
灰色の空からはらはら舞う雪を眺めていると、メールの着信があった。見てみると伊織からで、「今日言ってもいい?」との事だったので、仕事が終わったら大丈夫だと打ち返した。やっぱりこういうの忘れてなかったんだなとホッとしたが、同時にどうしてこれまで何も言わなかったのか?という疑問が浮かんでしまった。それは俺も一緒でお互い様なのに。
ともだちにシェアしよう!