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第3話 、あれッ、君は >>
「 いらっしゃいませ ーー 、どうぞ 〜 」
「 お待たせしましたーー 」
夕暮れ時、 混雑している100円ショップの店内。
2番レジ担当の智樹は、一所懸命に仕事をこなして行く。
この店に入って3ヶ月目……
智樹もようやく、慣れてきて、笑顔も自然に出るようになっている―――
外は、雪の降り方が段々と、強まってきて、
入店して来るお客さんは、徒歩のため、
頭の上やコートの肩が、白い綿菓子を乗せたようになっている人と、
厚着をしていない為、マイカーから降り駐車場から寒そうに走ってくる人……
大体、この2タイプに分かれる―――
お客さん達は皆一様に、店先で、雪をはらい
奥へと、進み散らばる…………。
智樹は、レジが手透きになった所で、買い物かごの整理や、
備品の補充を始める―――
店長が店内を見歩き、智樹の所在を確かめ、声をかけてくる >>
「 日野君 ーー 、駐車場混んできてるから、雪掻き頼もうかなぁ ーー 」
「 は 〜い 、分かりました ーー 」
智樹は、ジャンパーを羽織り、マフラーを首にグルグル巻にして、
事務室の裏口から外へ出てみる>>
店内から窓外を見てた時は、まだ、明るさが残ってたのに、
今はもう、あたりは暮れ色に染まり、雪の白さと行き交う車のライトだけが、目に飛び込んでくる―――
智樹は、この雪の降り方とヘッドライトに、
故郷を後にした、あの日の記憶が、一瞬、蘇るのを感じたが……でもあの時の、悲しみや、その他諸々の想いはもういいと、それを払拭するかのように、気を取り直し、明るく振る舞うーー
( ーー 寒ぶ ~ 、早くやっちゃおう ーー )
近くの家のオバちゃんが、この店の買い物帰りに、智樹に声をかけてくれる>>
「 日野君、頑張ってるね ~ 、寒いっしょ ーー 」
「 あ~、はい、大丈夫ですーー、若いですもんーー 」
「 彼女、いるの ーー ?、紹介しようか ーー ! 」
「 えッ 〜 、そんな暇ないですよーー、仕事覚えるの忙しくて>>
智樹はーー 彼氏を紹介してください >>と…言う訳にもいかず、
半分誤魔化しながら、雪掻きを続ける―――
車の出入りが慌ただしく続き、智樹は、駐車スペースを確保すべく、セッセセッセと手を動かす>>その甲斐有って、 一つ二つとその場所は出来ていくーー
その時、後ろからクラクションの音が聞こえ、おもわず、智樹は振り向く、
『 プップー 』
サイドガラスから顔を、覗かせた人が、聞いてくる
「 そこ、停めていい ーー ?、他いっぱいみたい ーー 」
「 あッ、いらっしゃいませ 〜 、こちらどうぞ ーー 」
「 ありがとう ーー 」
( ーー あッ、あの人だ ーー )智樹は、おもわず見返す……
あれから、数回、顔を見てはいるが―――
智樹が最初に、正月用の飾りを脚立の上から、落としてぶつけてしまった、肌の浅黒い精悍な顔の、智樹好みの人……
智樹は、少し照れながらも、ニコッと商売用の笑顔を向けてから、
他の駐車スペースを整える為、奥の方へと移動する ……
移動した場所から、何食わぬ顔をしながら、振り返り、
店先に、佇む彼を見詰める―――
以前、何回か目にしたときは、日中で、ジーンズと革ジャン姿だったのに、
黄昏時の今日は、ダークスーツを身に着けている ………
でも、仕事帰りのサラリーマンには、見えないし ………
ホストにも思えないーー、地味だけどパリっとしたスーツ>>
凄くオシャレなネクタイ>>100円ショップに来るには、
似つかわしくないとも言える出で立ちを
目にして、智樹は、その淡い恋心を膨らませていく―――
………
…‥ 家と仕事場の往復だけの、単調な生活も、
楽しいものではあったが、仕事が慣れるに連れ、
智樹は、段々と、淋しさが募って、
我慢出来なくなり、ゲイの世界を垣間見てみたい、どんな人達がいるのかなぁ、
会ってみたいなぁーーと思ってしまう…………
……丁度来週の週末、ススキノで、この店の飲み会 ( もちろん智樹は、ジュースのみだが 、一応は )が、催されるので、その帰りにゲイバーに、行ってみようと決心するーー―
…… 函館時代の智樹は、性的な経験がほとんどなく、
少しぐらいの同級生との遊びはあったが、それ以上の、例えば、誰かと付き合うなんて事は、男女問わず、丸っきり、皆無でーー
そんな奥手の自分が、ゲイバーに行くなんて、考えただけでも
足がすくむような気がするけれど>>それでも、一度は行ってみたいーー
心の中で、モヤモヤ感が募ってゆく…………。
……………
……………
それから、およそ10日後のススキノの真夜中。
……‥…職場の宴会の時間も終わり、午前1時になろうとしているススキノの一角で、
100円ショップの従業員は、それぞれグループを作りタクシーに乗り込む。
そんな折、店長が雪の降るなか、声をかけてくるーー―
「 日野君~、相乗りして帰ろうかぁ~?>>途中で落とすよ ーー !」
「大丈夫です――。僕、寄るとこあるんで ーー、田舎の 先輩が、働いている
店に行ってみようと ーー 」
「 そうか~ 、分かったーー 、明日、休みだったね 〜 、
それじゃ、気を付けて行ってよーー 」
「 は 〜 い 、ご馳走様でしたーー 」
……………
…………
その20分後、太陽館ビルの中にある、
とあるゲイバーのカウンターに座り、店のスタッフから、
いろんな事を聞かれている智樹の姿がーー
若いわね 〜 幾つ ーー ?>>二十歳にしておいてください、ほんとは、18だけど……
札幌の子? >>いえ、函館の方…‥
体細いわねーー何キロ?>>172ⅽⅿの49kg …
肌の色も真っ白ね ーー 可愛いわ 〜 、モテるわよ>>えーッ、ホントですか 〜 ⁉ ーー
名前、なんと呼ぼうかーー?>>トモキで…‥
OK〜 、トモちゃんねーー
時間が経つなか、 智樹は、酒で、気分はホワーッとしてきて、
夢ごちている―――その時、隣に誰か知らないお客さんが座る気配を感じるーー
ママの声が聞こえてくる―――
「 サキちゃん、いらしゃ〜い 、水割りでいい ーー? 」
「 いや、先に、ビール貰おうかな … 」
ーー顔を、ほんの少し右に向け、横目で、その人を見てみるーー
(―――えッ、ウソ~、嘘だろう~!!マジかよ>>>>
驚いた智樹は、一瞬、息を飲む――あの人だ~!>>こんなとこで会うなんて
>>どッ、どうしようーー ?!!!!
そして最悪にも、次の瞬間には、その彼と、目と目が合ってしまいーー
智樹は、身を隠す事を諦め、観念し―――頭の中を切り替え――
そのあこがれの彼に、ちょこんと頭を下げた ーー
あこがれの君も分かったらしく、目を見開きながら、智樹を見詰めつつ>>
「 あれッ、君、あそこの人・・だ・・よね ーー !! 」
智樹は、無言で頷きながら、にかーッと笑い、
照れと、恥ずかしさが入り混じった笑みを、
その彼に向け、その後は、緊張感に包まれたが………。
徐々に、ゲイバーのその心地良い雰囲気に飲まれ、
酔いしれ、記憶が薄っすらとなってゆく自分を感じーーー
あこがれの君との会話を含めたこの日の事は、
すべて夢の中の出来事のように思い始めていた………………
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