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第2話

朔ちゃんと結婚して、間もなく1年になろうとしている。 33歳ゲイの俺と、30歳元ノンケの朔ちゃん。出会いは月並みな言葉になるが、最悪だった。 9年も前のことだ。当時本気で入れ込んでいた彼女が他の男に寝取られたとか何とかで自棄酒を呷りに呷り、酔い潰れて二丁目近くの溝にはまっていた朔ちゃんを、俺は助けた。 はいいが、その頃から女装してゲイバーに勤めていた俺をオンナと勘違いした彼に、捨て鉢気味にラブホテルに連れ込まれた。案の定、彼は男の俺の裸を見て「騙された」とか「萎えた」とか散々言った挙句に眠ってしまい、腹が立った俺は翌朝、昨夜の記憶が抜け落ちた状態で起床し、ひどく動揺している彼にすっぴんと裸を堂々と晒した。そして、「昨晩は激しかったわ。あんなの初めて」と娼婦じみたセリフを耳元で囁いてやり、彼をさらに狼狽えさせた。 意趣返しが成功し、気持ちがスカッと晴れた俺は、終いには放心していた朔ちゃんを放って部屋を出た。その時は、この失礼なノンケくんとは、もう二度と会うことはないだろうと思っていた。 思っていたのに―― 詳細は長くなるので省くが、あの夜から数日後、なんと朔ちゃんは二丁目の俺の勤務先にやってきて、俺を猛烈にアタックし始めたのだった。 あまりの惚れられっぷりに、俺はもちろん、周囲のゲイ仲間も吃驚仰天だった。あの夜、本当は何もなかったのだと真実を明かしても、それがどうしたと言わんばかりに、朔ちゃんは俺を口説き続けた。結局、彼の熱意に根負けし、彼と付き合うことにしたものの、どうせまた俺の裸を見て、萎えたり怖じ気づいたりするだろうと思い、本気になるつもりはなかった。 今思えば、あまりに不誠実だったが、俺なりに予防線をはっていたのだ。 それが、見事に覆されたのはいつ頃だっただろう。 俺たちは意外にも順調に交際を続けていった。キスもセックスも存外に上手くいき、身体の相性が良いことも分かった。一緒の時間を過ごしていくうちに、互いの人となりを知り、俺は次第に朔ちゃんにのめり込むようになった。 そして大学生だった彼が就職し、一緒に暮らすようになってから6年後、「いい加減、けじめをつけさせてくれ」と彼からプロポーズされ、俺たちはその翌年に結婚したのだった。 そんなわけで現在も、長年同棲していたマンションで暮らし続けている。昼の仕事と夜の仕事で生活リズムは異なるものの、平穏な日々をふたりで過ごしていた。 そう、平穏な日々を……。

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