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第7話

ハイボールとモヒートが目の前に置かれた。朔ちゃんと乾杯し、グラスに口づける。炭酸のパチパチと弾ける感覚が喉を通る。この瞬間が、たまらなくたまらない。この店のハイボールはマッカランを使っているので、蜂蜜のような甘みの中にほんのりとした辛みもある。鼻腔に漂うは、シトラスを彷彿とする爽やかな香りだった。 「美味しいわ」 「ありがとうございます」 新人くんがはにかんだ笑顔を浮かべた。この店に就職する前は、もっと本格的なバーで研鑽していたそうで、一度彼の作るカクテルを飲んでみるのもいいかも知れないと思っていると、となりから「黒霧のロックをくださいな」と聞こえてくる。見れば、朔ちゃんが持つカクテルグラスは、ミントの葉を残して空になっていて驚いた。 「え、嘘。もう飲んじゃったの?」 「だって、すっごく美味しかったのよ」 朔ちゃんは華やかに笑い、空いたグラスを新人くんに渡した。「お世辞じゃないわよ。このカクテルをアテに黒霧が飲みたくなったもの」 「……カクテルを焼酎の肴にする人、初めて見たわ」 つまり、カクテルではやはり物足りなかったのだろう。変にぶりっ子せずに、最初から黒霧を頼んでおけば良かったのに。俺は呆れながら、岩のような氷がごろごろと浮くハイボールを飲んだ。これから暑い季節になるから、浴槽に冷えたハイボールをたっぷりとはってどっぷり浸かることができたら、なんて馬鹿なことを考える。 その時だ。 「――ねぇ、隣いい?」 ふいに男の声がして、顔をあげる。が、それは俺に向けられたものではなかった。……見かけない二人組が人当たりのいい笑みを浮かべて、けれども朔ちゃんの答えを聞くよりも先に、カウンターの角を挟んで向かいの席に座ってくる。ひとりは「毎日ジムに通ってます」と言わんばかりのマッチョで、もうひとりは二枚目と三枚目の狭間にいるようなソフトモヒカンの男だった。 「この店にはよく来るの?」 ソフトモヒカンが朔ちゃんに訊ねる。「俺たち、今夜が初めてでさ。ちょっと緊張してて……」 「良ければ、話し相手になってくれない?」 とマッチョは朗らかな笑みで言った。ふたりの眼中には、明らかに朔ちゃんしかいない。どうやら俺は、彼らのお眼鏡に適わなかったようだ。……まぁ、別にいい。声をかけられたところで、適当にあしらうだけだから。 「いいですよぉ」 けれども朔ちゃんは、彼らに明るく応じる。眉頭がわずかに寄ってしまったものの、俺はすぐに事もなげにハイボールを呷り、彼らのやり取りを横目で窺う。

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