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第14話
「で、どうよ? 久しぶりのラブホは」
「え? ……あぁ、うん」
朔ちゃんのとなりに座って、渇いた喉を水で潤していた俺は、コップから口を離し、曖昧な笑みと言葉を返す。どうよと訊かれても、何も始めていないのに答えられることなどなかった。
「あらぁ、ひょっとして馨ちゃん、こんなに綺麗なオンナを前にして緊張してんの?」
先ほどの役が舞い戻ってきたようで、朔ちゃんは婀娜っぽい口調で訊ねてきた。俺は思わず、ふふっと笑う。
「どうだろう?」
「アタシが手解きしてあげるから、心配いらないわ」
「へぇ、個別指導してくれるんだ?」
「当然よ。その代わり、高くつくわよ?」
気取った様子でそんなことを言ってくる彼が面白くて、笑いが止まらなくなる。朔ちゃんも俺につられて、男の声でゲラゲラと笑いだした。程よく酔っ払っているお陰で、気分が良い。心地よい浮遊感が頭の芯に広がっている。
それから朔ちゃんはオンナらしい仕草で脚を組み、頬杖をついた。フィッシュテールのスカートが大胆にも捲れあがり、これまたママ好みの黒レースのガーターベルトが露わになる。学生時代、女遊びと同じくらいバスケットボールの練習に明け暮れたという彼の太ももは、筋肉ががっちりと程よくついている。良質な身がぎっしりと詰まっているのだろう。それを上目遣いに見せつけてくる。自己陶酔に浸っているに違いない、朔ちゃんは艶めかしい表情で笑っていた。
「お前は、俺に見惚れてくれねぇの?」
挑発的かつ男くさい物言いに、くすりと苦笑がこぼれる。まったく、どこまで自信たっぷりなんだか。けれども、そういうところが朔ちゃんらしい。俺はヒールを脱ぎ、彼の膝に跨った。
視線と視線の距離が一気に縮まる。朔ちゃんの眼差しから、じっとりとした熱を感じ、うっとりとした気分になる。アイシャドウで煌めくまぶたよりも、マスカラで目力が増したまつ毛よりも、いつもと変わらない焦茶色の瞳の方がずっと綺麗だ。その目をまっすぐに見つめ、少し照れくささを感じながらも、俺は甘く囁いた。
「いつだって見惚れてるよ」
「へぇ。俺に骨抜きなんだな」
「嘘、知らなかった?」
朔ちゃんが俺の唇を吸った。ちゅっと軽やかな音を立て顔を離し、ふふんと機嫌良く笑う。
「知ってるに決まってんだろ」
そして今度は、かぶりつくように唇を塞いできた。伸びてきた舌を誘うように口を開き、自分の舌と絡める。その感触を確かめ、楽しむように舐め合い、唾液と吐息を混ぜ合わせる。
頭の芯がじんわりと痺れていくようだった。腰のあたりに甘い疼きがべったりとへばりつき、やがてそれは焦れったさとなって、身体中に広がっていく。
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