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第17話
「悪い馨、そこからローションに手ぇ届く?」
「……ん」
やっと、そこを触ってもらえる。嬉しくて、性器にさらに熱と重みが孕んだのを感じた。よいしょと身体をねじり、ベッドサイド上の四角い陶器の皿に乗った数枚の小袋を確認する。その中から潤滑剤を手にとり、朔ちゃんに渡した。
衛生面を考慮しているのだろう。ボトルやチューブではなく、1回で使いきるタイプのものが用意されていた。朔ちゃんは封を切ると、その中身をすべて手のひらに出し、中指や人差し指の先をそれに浸した。俺はだらりと脚を広げ、その時がくるのを待つ。そして、ローションがまとわりついた朔ちゃんの右手が、俺のアナルを撫でた。
いつも通り、ぬるい感覚とべっとりとした感触だけだと思っていた。
だけど、今夜は違った。
「……アッ、ぇ……あ、ぁ……?」
触れられただけで過剰なまでの熱をじわっと感じ、ついでさざ波のような快感が全身を巡った。どくん、どくんと心臓の動きが速まったのが分かる。骨や筋肉にまで響くかのような激しい鼓動だったからだ。肉体はいきれ、肌じゅうの汗腺が開き、汗がどっと噴き出してくる。
……この感じは、まさか――
「媚薬成分入りらしいぜ」
動揺する俺に対し、朔ちゃんはにやりと笑って、敏感になったそこを指でつつく。「痛みを極力感じなくするためだと。やっぱ二丁目のラブホだし、ゲイカップルに優しいな」
「あっ! あぁ、ッ……は……!」
節くれ立った朔ちゃんの指が1本、躊躇いなくずぶずぶとアナルに入っていく。異物感はあるが、確かに痛みはなかった。むしろ、腸壁にローションを塗られたことで、軽く意識が飛びそうなほどに気持ち良い。ペニスは汁を滴らせているのだろう、下腹部にぽたぽたとそれが落ちてゆく感覚があった。
「……ぁっ……アァ……んぅ……」
「いつもより熱い……どろどろしてる」
「あっ、あ……さく、ちゃ……」
「2本目は……あぁ、簡単に入ったな……」
穴がさらに広がり、異物感が膨れた。けれども、たいして気にならない。とにかく、朔ちゃんの指で触られるのが気持ち良くて、身も心も悦んでいた。そして、満たされつつあるのに渇望していた。ぐちゃぐちゃと粘着質な音を響かせ、腹のなかを掻き回され、指よりも熱くて大きなモノを受け容れる準備を整えられていくのに比例し、渇きや飢えがひどくなっていく。
媚薬のせいで、大脳辺縁系が暴走でもしているのだろうか。分からない。けれども俺の身体は、心は、朔ちゃんを欲して、欲して、どんどんはしたなくなっていた。
「……あああっ、あんっ、ぁ……はぁ……っ」
激しく、情熱的に責め続けられ、限界だった。指の刺激だけで呆気なく射精し、頭の中が真っ白になる。陸に打ちあげられた魚のようにのたうち、奔放に喘いだ。……絶頂の余韻に浸る間もなく、朔ちゃんの指が腹のなかからずるりと抜けていく。その感覚にさえ身体は淡く、けれどもはっきりと反応してしまった。
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