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第6話
会長付き、会長、それから幹部の人間が複数名出てきた。おそらく部屋は無人になる。
(爺さん家のカードキーを肌身離さず持っていてよかった)
荘厳たる雰囲気を保ったままエレベーターに乗り込んだ会長一行は、近くの階段に座る鴬に気づく事なく消えていった。
それを見届けた後、何食わぬ顔して立ち上がり、玄関ドアでカードキーをかざした。
「まるで警察のガサ入れみたいだ」
多少の興奮を自覚しながら、カードキーを取り出す。
「怪しい動きをしなけりゃ、それは怪しくない……てね!」開錠されたドアから楽々と侵入に成功し、真っ直ぐ書斎へ向かった。
「確か、ここら辺に郵便物の類が重ねて置いてあるはず——っと、あった」
茶封筒に包まれた書留を手に取り、裏面を確認する。「よし、これで住所ゲット! 写メ撮ったら此処でのミッションはクリア」。
そして間も置かずに再び玄関ドアから颯爽と出ていく。仁作と一緒に住んでいる自宅に戻ってからは、自室に籠もってある書類を作成した。簡略した文章だが、ボロが出るよりいい。
それから1週間。相手からの返答があるまで、毎日最上階の郵便受けを確認する日々が続いた。桔平に成り代わって出した書簡であるために、決して桔平の目に触れさせることはできなかったのだ。しかし、仁作にも普段やらない自力での朝起きに驚かれながらも褒めてくれたので、一石二鳥だった。
「——ふふ、やっと返事がきた……あー、外食が楽しみだなんていつぶりだろ!!」歓喜に満ちた声を惜しげもなく出して飛び跳ねる。
「鴬! うっさい!! 静かにしろ!!」
仁作が嫌いな勉強をしているとあって、苛立ちをぶつける。鴬にとってはそれすらもご褒美でしかない。
「はぁーーい!」と間の伸びた声を出して、書類をシュレッダーにかける。
「……ったく、こんなに書類が難しいって知ってたら、舎弟のままで駒使いされた方が力になれたかもしんねぇな……マジで呪文のようにしか見えねぇ」
頭を抱えて苦戦している仁作が、リビングで契約書手本を睨み付けている。端正な顔立ちが睨 め付けるので、より冷酷非道さが漂ってくる。
「呪文じゃありませーん、それ、僕らが使ってる日本語で書かれていますよー」
握る手が力んで書類を皺々にしている手を後ろから被せて、「大丈夫。呪文でも何でも良いから丸っと覚えちゃえば良い。後からでも意味は分かってくるよ。だってその呪文、日本語で書かれているんだから。読めるってことはそう言うことだと思う」とフォローした。
「……サンキュ」
そう言って、仁作は書類を持っていないもう片方の腕で、鴬を抱き寄せた。逞しい腕に抱かれて、、仁作自身の温かさに瞬時に溶かされてしまう。
(……数年ぶりに抱きしめて貰えたかも)
これが意味のある抱擁であったなら——。
「……っ!」仁作は何かを思い出したのか、程なくして抱いた腕を解いた。
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