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第7話「厄介者」——常盤鴬——

 春に仁作と鴬に内密に辞令が出てから1ヶ月。ようやく大々的に常盤の連中にも知らされ、さらにはシマのあちこちで声をかけられる日々が始まった。組員であったり、常盤が管理しているホステス街のホステスや客だったりと、多岐に渡る人々に歓迎され、期待の眼差しを向けられ続けた。  外回りはシマのパトロールも兼ねている事を、此処ら一体の地域住民は知っている。だから、気軽に声をかけてくる。  鴬はまだ高校生なので、休日の昼間に同行するが、その時にちょくちょく耳にする。  「自治体のような役割を果たしている常盤組にはすごく感謝しているし、ぶっきらぼうな仁作さんが若頭に選ばれたことが。我が子のように誇らしく思っているのよ」というどこから目線な意見。  そこまで一般人が極道者に肩入れをするのは、鴬としては如何なものかと首を傾げ続けた。  たしかに、黙っていれば図体と顔で威圧的に見られるということもあり、普段は無口でクールタイプを装う仁作だ。だがその実態は、現在自宅で「……未だに覚えられん。つか、契約書類だけ覚えれば良いんじゃなかったか?! なんで法律関係も?!」と書類に四苦八苦して、高校生と変わらぬ悪態をつく様子を誰が想像できるだろう。 「じゃあ、気分転換に外回りにでも行っちゃう?」  鴬の提案は名案だったらしく、「それだ」とおもむろに立ち上がり、ほとんど手ぶらで外へ出て行った。「ちょっと! 提案したんだから僕も連れてって!!」と仁作を追いかける。  若頭に就任した仁作には新たに付き人がつくようになり、外出にはドライバーが必至となった。それは本部長になった鴬も同様である。「俺、自分で運転できるっていうか、兄貴たちの足だったから、それこそ運転テクは上級者並みなんだけど。皆俺の運転テクを疑ってんのか」と後部座席で頬杖をついてぼやく程、運ばれるだけはつまらないらしい。  ホステス街の離れで車を駐車し、ドライバーを待機させたまま仁作とホステス街の見回りを開始する。ところが昼下がりのホステス街にも関わらず、ホステスと客が賑わっていて、さながら祭り事のようだ。  だが、鴬には鬱陶しくて、香水臭くて、堪らない。「仁作さーん! やぁん、風邪の噂で若頭に昇進したって聞いたんだけど!」とあちらこちらで仁作に群がるハイエナらが、絶えず仁作を囲う。  親目線の意見も気に食わなかったが、この女臭さの方が鼻持ちならない。  仁作行きつけ(シマ内で飲めば割引きしてもらえるらしく、他の飲み屋に行くことがほとんどない)のキャバクラ付近になれば、その臭いとハイエナの数が増えた。  鴬はたまらず、仁作の腕に巻きついて半ば拘束した。    「あ、お姉さん! 僕だってただの爺さんの孫じゃなくて、本部長に昇格したんだよー?」と女に媚び諂うのも忘れずに。 「へー!! 鴬ちゃん、高校生に進学したばっかりなのに着実にエリート街道まっしぐら? すごいじゃーん!」 「つい最近まで可愛いらしい少年だったのに、綺麗な青年になっちゃってさぁ。時間経つの早いってうか、無常よねぇ」 「ちょっと!此処はホステス街だからあんまり高校生なんて大きな声で言わないでよね!」  鴬は精一杯仁作の前に乗り出して、ハイエナと対峙する。  仁作と隣にいたところより接近したために、鼻がもげる程の香水に眉尻がピクリと一生懸命に拒否している。 「誰が井戸端会議に参加していいってて言ったよ」  ごつ、と軽く作られた拳はオウの頭部を物置にして、それから拳が緩んで開かれた掌で後ろへ促した。掴んでいたはずの腕は難なく抜けられた。

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