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第12話
ソファから立ち上がり、キッチンへと向かう途中に鴬の横を通り過ぎる。
「っていうのは、建前で……」鴬が仁作の後を追い、スラックスの中に入れられた腰元のシャツを掴んだ。
「男らしくて、皆のために体を張る仁作は皆の憧れの的だと思うよ。でも……ずっとそばにいてくれるって約束したのは僕だから……。体を張る目的が皆のためっていうのがちょっと」
仁作の掴まれたシャツに、より克明にシワを作って「子どもとしか見てくれなくても、ずっと好きを抱えてここまで来たよ」と訴えかける。
彼の内情を知悉しているつもりだったが、背後から弱く引く鴬は、目に涙を溜めている。
それを見て、どろっとした欲情の塊が口から漏れ出した——生唾を飲み込むのも忘れて、刹那的に唇をあてがった。
間髪入れない所作に目を見開いたままの鴬。しかし、寛容的に仁作の背中に腕を回した適応の早さに、突発的に襲った仁作が驚く。
それでも鴬の口内へねじ込まれた舌は、欲動的に快感だけを求め動いて歯列へ、奥へ、それから上顎へと粘膜を混ぜ合いながら刺激を与える。
普段から喉元まで押さえつけていた塊だ。
「もっと……」と鴬が強請る。そう言いながら絡んだ音さえ、聴覚刺激となって耳を犯していく。
それがエスカレートして徐々に仁作が上から覆い被さり、次第に腰を抜かす鴬。ゆっくりと雪崩れるように床に膝をつき、尚も受け入れ続ける。
止まらない。いや、止まれない。積年溜め込んだものを一度放流すれば、とめどないことなど百も承知だった。
口の端から溢れるどちらのものか分からない液は、仁作の舌で容易に舐めとられる。それから、鴬の制服を剥ぎ取るかの如く、脱がせては投げて、次へと脱がしにかかる。
露出させた肌が扇情的で、さらに白さも相まった女性的な徒 っぽさに、欠片ほどの自制心が朽ちていく。
本能剥き出しの仁作が息を荒くしながら、首にかぶりついて、鎖骨に噛み付いて、小粒の突起をねぶった。蛇舌のように伸ばした舌で突起に巻きつかせながら舐めとる。
そこが「甘い」など、おとぎ話の中の小洒落た表現だと実は奥底で馬鹿にしていた。だが、これは目の前の視界に、艶かしいはだけた鴬の姿があり、味などするわけがないのに、甘い蜜がそこから滴り落ちても不思議ないと錯覚してしまう。
鴬の嬌声を聞いて尚、女性らしく感じて思わず舌舐めずりが出た。鴬であるなら、どんな声でも興奮する自信しかなかったが、想像以上に高い声でないている。
「仁作……仁作、ねぇ——」腕を回して仁作のやや太い襟首を掻き毟 る。ここまでの一連に仁作が一言も言葉を紡がずに来ているので、流石に不安を覚えたのだろう。
「——っ、ごめん!!」
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