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第20話

 帰宅してきた仁作の元へ、駆け出して迎えた。待ち遠しい彼の帰還だ。  「おかえり!!」と愛嬌たっぷりに抱きついて見せた。その隙に仁作の胸にぴっとりと顔を寄せて、スーツに染み付いた外の匂いを嗅ぐ。彼へのマーキングは一切行なっていないだけに、どこの馬の骨か分からない臭いには敏感にチェックする。  散々甘えるフリをして、ようやく精査にクリアした時には「どうした? 可愛いからいいんだけど」と鴬を見下ろす仁作がとても優しい顔をしていた。  この男を占有している実感が湧いてくる。少しだけ、充足感に満たされて気を良くした鴬は、早々に仁作に祝い言を口にした。 「おー、俺、また一つ年食っちまったんだなぁ」 「そんなにあっけらかんとされても……もっとこう、あるでしょ?」 「20越したらそんなもんどうでも良くなるもんだ」 「ちぇ、つまんないの」  「でも、ありがとうな」いつものように仁作から頭を撫でられる。それは気持ちが伝わる前と同じ、子供扱いをしているような撫で方だ。  大きく鴬の髪を撫で回すので、「また、子供扱い」とつい、口を尖らせてしまった。 「未成年は子供だろうが。そんな子供より、俺の方が能はないし、ただの図体がでかいだけの野郎ってのがまた、情けねぇ話なんだけどな」  それから仁作はゆっくりと鴬を抱き寄せて、さらに密着度を高めた。嫌な臭いの片鱗もない。 「……なんで、俺が若頭に……——悪い、お前にする話じゃなかった」 「そんなことない。ちょっと待ってて」  鴬だけリビングに戻り、小袋を持って仁作の前に差し出した。「はい、誕生日プレゼント」。 「今、開けてもいいか?」  細めがちの目が今日はぱっちり気味だ。 「おおー、ブレスレットか……ん? これ、裏にダイなんちゃらって……お前、これは堂々と暗殺予告か?」  「die kette」の文字を仁作は顔をしかめながら、苦しそうに解読した。 「違う違う!! 堂々と暗殺予告って矛盾しすぎ。じゃなくて、若頭としてというより、仲間としてその身ひとつで奔走する仁作には、必要かなって思ったの。命がいくつあっても足りないからさ。だから、仲間を信用した上で、仲間に任せるやり方もあっていいんじゃないかな。」  鴬は決して的外れなことを言ってるわけではないのだが、仁作には会話が繋がっていないようで疑問符が頭上をふよふよとしているらしい。目線が合わない。 「仁作は何にも替えがたい宝物だよ」  いつぞやの爺さんの台詞をそのまま発してしまった。ほとんど無意識であったために、仁作が目頭を熱くさせているのを見ても、嫉妬心が顔を出して邪魔をする。  狭量にも程があるが、鴬はこの欠片しかない良心の呵責もどきをコントロールする術を知っている。  早速受け取ったブレスレットを身につけた仁作が「……俺の誕生日か……。なぁ、ワガママをひとつ、聞いてくれるか?」と熱視線を送られる。 「なぁに?」 「話は鴬の部屋で」  軽々と鴬を姫抱きにして、リビング前にある扉を開けベッドに下ろした。

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