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第33話
「それは大変ですね。では仁作さん。日程はまた後で、お話できれば幸いですわ」
「え、ええ、そうですね」
すんなりと天音一行は仁作らとすれ違う形で、すんなりと引き下がって行った。
——刹那、小石に躓く天音。ちょうど仁作の横を通るタイミングだった。
「大丈夫ですか?!」と咄嗟に肩を抱き寄せた。
「天音さん! 大丈夫ですか?!」
仁作は目を見開かせた。見合い相手、もといライバルのような相手に鴬は心配の声をかけたのは、吃驚案件でしかない。
くわえて、彼女の手を取り、姿勢を正してやるまでしている。
ここからは仁作の与り知らない、もはやオフレコの領域でしかないのだが、鴬が彼女に手を取った際、「お気をつけて」と気遣いの言葉を差し伸べた。
それに気を良くした天音は頬を紅くして頷くも、「あんまり調子に乗んなよ、阿婆擦れが」という鴬の毒に矢を射抜かれる。
ここまでの一連の動作に、天音の三下や仁作までも蚊帳の外である。
「——最後に、此処は僕らのシマなんで、会えるからと言って、上を使わずに迂闊に此方へ来てもらっては困りますよ? 多分、貴女のお父様も僕と同じように仰ると思います。こういうのは信用問題に直結しますから。うちだって、信用を買ってもらってこの地位にいるんで、傷つけられることを嫌います。その点、ゆめゆめお忘れなきよう」
「ま、抗争問題に発展してくれてもいいですけど。せっかくの見合い話もおじゃんになるしね」と鴬は言ってのけた。
「……おい、さっきから黙って聞いてりゃなんだ? お嬢に向かって」
「いえいえ、そんなつもりはないんですよ? ただ、やたらめったらにうちのシマを徘徊していたのは、いくら組のことに無知であっても、失礼極まりないマナー違反だと教えとくべきでしょう? もしかして、貴方方も知らないので?」
「……おい、仁作の旦那。部下をどうにかしてくれ。教育がまるでなってねぇ。俺らだって我慢の限界というモンがあるぞ」
(急に裏表をお披露目して、一体何のつもりだ? 鴬)
「それ、僕のことを言ってます?」
ニヒルに笑い出した鴬に、仁作は善後策の手段を思案に更ける。暴走すると止められないのは、極道育ちが出ているらしい。
「おめぇ以外に誰がいるってんだ」と天音の三下らが厚顔無恥な面を晒して煽る。
「僕、若の部下ですけど、部下じゃないよ。お互い構成図をよく知りもしないのに、そんな失礼なことを連発させて……もう、僕のお爺ちゃんに言いつけるよ?」
こてん、と首を傾げてそこらの女よりも可愛らしさを存分に振りまいて、職権濫用の斧を振りかざした。
仁作はすかさず斧を振る鴬の腕を取り、制止に入る。「すまない。この部下は俺の部下で間違いないんだが、そもそも現会長の直径のお孫さんだ。天音さんと同位置にいる人間で、俺が黙っていても、コイツが会長に告げ口をすると、ちょっと厄介だ。ここは、俺の顔に免じて勘弁してやってくれねぇか?」。
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