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第38話

 「それ、僕のセリフだよ——本当は、周りなんて見えなくていい、ていうか見るなって言いたかった。それなのに、仁作が僕を好きでいてくれていると感じた途端、ぬるいことを言っちゃうんだよ……」吐き捨てるように言った後、仁作の襟元から垂れ下がるネクタイを手繰り寄せて、それを仁作の首へ直に巻きつけ再度自身へと引き寄せた。 「思考が仁作ファーストで働いてるせいで、僕は毎日……気が狂いそうだよ」  仁作の瞳が鏡のように反射して、ギラついた自分が克明に見える。 「——俺に対しても愛想笑いすんのは、そういうことか」  噛み付かんばかりの視線は尚もひしひしと伝わってくる。 「いつのことを言ってるのかわからないけど、仁作ファーストだから、きっと……仁作の不利に働く気持ちだったんだと思う。それを隠さないと、仁作は優しいから」  「そんなことを考えてたってどうしようもないでしょ? だって、仁作は優しいから」二度目の優しさはもはや仁作への皮肉だった。優しいから、これ以上の嫉妬や独占欲をぶつけても、具体的な解決策は愚か、セックスだって仁作は理性を必死で集約して固めて、鎧にする。自己犠牲の塊でしかないのだ。  ここへ来る以前からの性質らしいが、それを形成させた要因になった環境もとい、劣悪な環境を作り出し仁作を産み落としただけの毒親に苛立ちを覚える。 「優しい……か。俺、優しいのか」 「優しいよ。酷く優しい」  そう言って鴬は熱が伝わる腹上のソレに手をかけた。ゆっくりと突起のみをなぞって「僕は逆に痛いよ。仁作も痛くない?」と仁作の野生化を促す。 「おい……あんまり俺を煽るな」  睨みにも似た目でこちらを見る。「俺は、お前を大事にしたいんだよ」。 「もう十分大事にしてもらってる」 「俺の大事にしたい気持ちを大事にしてくれるんじゃなかったのか」 「……」  返す言葉を巡らせている間も、仁作への刺激は止めない。  「——っ鴬」と仁作が絞り出す声にそそられた。それに明らかな興奮と昂りを感じて、「頂戴」舌舐めずりをする——。 「——っクソ!」  鴬が引いていた手綱のネクタイを取り上げて、ついでに両手首を片手で束ねてしまうと、「もう謝らねぇ」そう宣言した。その後、耳を食い、首筋に齧り付いて、それから唇にも歯を立てた。  わざと啜るような音を出して、本能剥き出しの前戯が再開した。  「気持ちイイことだけ考えてろ」先ほどまでの葛藤を完全に払拭したらしい仁作は、鴬が触るような優しさなど微塵もない豪快な手つきで、鴬の一物を下着の中まで侵入して握る。 「ここは大人しくて扱いやすいのに、鴬本人はハイエナの権化だな」  多少荒っぽい扱きであっても、鴬のソレは素直に体液を垂れ流す。「というか、俺を煽って酷くされたいまであんのか? ってくらい、反応するな」。 「俺は優しくしたいタイプだが、鴬がそうじゃねぇってんなら、しょうがねぇ」  仁作が鴬の一物の先端を覆って強めに握った。重たく体に痺れを与える刺激に、思わず嬌声とは言い難い唸り声を出す。

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