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第5話

「あなたは?」  アーサーは只者ではない黒いローブに頭巾姿の男に少し気後れしつつも、声をかける。  男は「これはこれは非礼を」と詫び、名乗る。 「我が名は剤(サイ)。この先で、薬師をしております」 「くすし?」 「ああ、薬を作っておるのですよ、天使サマ」  剤は僅かに視線をアーサーから薬を売っている店の方へ移す。いくつもの店が並ぶ中、剤の店はかなり繁盛しているらしく、大きな店(たな)だ。 「さあ、立ち話もなんですので、狭苦しいところではありますが……」  既に剤の薬種屋は本日の商いを終えているのだろう。しんと静まった店の中には様々な大きさの甕や食料品、ちょっとした日用品が布を被せて置かれている。 「Cool. まるで、日本のファーマシーみたいだ」 「くーる? ふぁーましー?」 「ああ、Coolはかっこ良いって意味で、ファーマシーは薬屋さんかな?」  ちなみに、アーサーが日本で初めてドラッグストアと聞いた時にはなんて危険な国なんだと思った。  だが、夏迫の説明で、ドラッグストアにはドラッグは置いていなくて、薬や包帯、絆創膏なんかの他に食料品や化粧品、食器、洋服用問わず洗剤と名のつくあらゆる洗剤、果てはペット用品も買えると聞いて、凄い店だと思った。 「成程。天使サマ、こちらが我の庵になりましてな」  行燈を片手に、剤とアーサーは薬を販売するスペースを通り過ぎ、剤が薬を作ったり、休んだりする居住区とも言える庵と向かう。  庵へは店内の隅にある戸を開けると、 短い渡り廊下と小さな庭園が現れる。提灯で照らされた町は明るかったが、月光が注がれるような庭園も十分に明るく、幻想的だった。 「ここにはちょっとした薬草を植えて、薬や茶を作るタシにしておるのです」  あっと言う間に、アーサー達は渡り廊下を通り、庭園を過ぎ去る。 剤は庵へ続く戸を先程、庭園へ続く戸と同じように開けると、僅かに、庭園に注がれていた月の光が差し込むだけの場所へ入る。

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