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第6話

「今、灯を」  剤は持っていた行燈の火で、庵にある室内用の大きな行燈へ火をつける。大きな行燈に火をつくと、室内は幾分か明るくなったが、ライトや蛍光灯に慣れているアーサーにそれでも暗く感じた。  アーサーは夏迫がいつか言っていた土間で靴を脱ぐと、剤に勧められるまま、室内用の行燈近くで腰を下ろした。 「実は、僕は天使ではなくて」  確かにアーサーはある人にはコミックスのヒロインと間違われ、ある人には幽霊と間違われ、この世ならざる者に間違われたこともある。  そこに天使が仲間入りするのは何とも言えず、シュールだが、アーサーは天使ではなく、アーティストであることを剤に説明する。 「あ、絵を描いていて。多分、ここではない世界で」  アーサーは説明すると、剤は「この世界で言うところの絵師サマのようなものかな」と言う。 「ごめんね。何だか、ガッカリさせてしまったみたいで」  普段のアーサーならもう少し悪びれない態度で、誰にでも接するのだが、この剤はとてもそんな気にはならなかった。  何というか、会ったり話したりしたことはないが、自分と同じ名前を持つ祖父に抱くような気持ちだった。 「ああ、まぁ、そんなに容易く会える存在では理解しておるさ。煙が見えていたから期待はしていたが」 「煙?」  アーサーは自身の体を見るが、当然、服や体から火が出て、燃えている訳ではない。 「いや、何。煙というのは我以外の人間には見えぬもの。本来、この世に存在しない者は霧のような、煙のようなものが薄っすらと見えておるのよ」  剤は説明を終えると、アーサーの体には触れず、その手前に包帯の巻かれた手を伸ばす。まるで愛しいものを触れているかという優しげな手つきにアーサーも目を奪われる。 「そなたには思い人がおられるようだ」 「思い人……」 「ああ、好きだと心が思っている相手。余程、大切に思われておるのだろう。優しくて、柔らかいのに、一方では苦しいくらいに張り詰める」  剤はアーサーの方へ伸ばした手を下ろすと、左目をふっと閉じる。  アーサーは不思議だった。 「どうして……分かったの……?」  アーサーは夏迫のことを両親にも比較的、一緒にいることの多い同じ芸術仲間のクリスにも。誰にも打ち明けてはなかった。  だが、見知って、何分も経たない剤にあっさりと言い当てられる。  そして、口にされ、明言されたことで熱いような、泣き出してしまいたいような気持ちになる。 「なに。そなたよりも伊達には生きてはいない。死の淵を彷徨い、愛されることも知り得た。そんなに驚くことでもないのよ」

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