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第10話
「今日はあまり客足がない」
と、胤は切り出し、夏迫に仕事を終えるように伝える。2人は胤の店を出ると、その3軒先の宿屋・鶴竹(ツルタケ)に向かう。
讃自体は然程、広くない町だが、行商人や旅一座の類が多く出入りすることもあるのだろう。亀梅(カメウメ)や福松(フクマツ)などランクや利用人数が違う宿屋が何軒かあるらしく、夏迫も胤の師父の口利きで、部屋を借りているという。
「俺は納屋とかで良いって言ったんだけど、そんな訳にはいかないと止められて、1番高級な福松(フクマツ)か2番手の亀松(カメマツ)かにって言われて」
夏迫は笑うと、木製の窓を開けると、慣れた手つきで開いた状態のまま、棒切れのようなもので、固定する。すると、先程まで薄暗かった部屋は日光が差し込み、窓下へは讃の賑やかな町並みが広がっている。
ちなみに、鶴竹は宿屋のランクとしては中の下といったところらしいが、部屋のこじんまりとした感じや胤の店から複雑な道を通らずとも近いということもあり、夏迫は大満足だった。
「確かに、屋根裏部屋みたいでCoolだね」
背の低い和箪笥が2つに、和机と行燈が1つずつ。それに、天蓋カーテンのついたアジア風のベッドがあるだけの部屋はアーサーにとっても好感が持てた。
「って、こんな状況なのに、呑気かな? 僕達」
本当であれば、もっと言わなければならないこともあるだろうし、言いたいことだってあった筈なのに、言葉が出てこない。
ただ、アーサーとしては夏迫がいれば、それだけで安らかな気持ちだった。
「ああ、こんな状況なのに、呑気だと思うよ。俺達」
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