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第12話

「アサ殿?」  2日目の夜。  アーサーは夏迫が宿を借りる鶴竹から剤の薬種屋へと戻っていた。讃の町はまるで画家仲間のクリスと一緒に行った縁日のようで、美しく、賑やかで気持ちが高揚する場所なのにそれが何だか今のアーサーには合わなくて、人目を避けるように剤のところへと急いだ。 「……茶でも淹れましょう。あと、絢菜が膳を用意してくれておるし、絢花(アヤカ)が菓子を作ったようだ」  既に薬種屋は店仕舞いし、絢と名のつく3美女は薬種屋を後にしているらしい。剤によってそれらがアーサーの目の前に用意される。  アーサーは朝食を食べて、昼は鶴竹で出されたお茶とそのお茶に添えていたお茶請けくらいしか口にしていない筈だが、食欲が湧かなかった。 「いただきます……」  だが、膳を用意してくれた絢菜や菓子を作ったという絢花、茶を淹れる剤を思うと、とても要らないとは言えなくて、アーサーはゆっくりと箸やレンゲを進める。  熱々ではないが、適度に白米も卵入りのスープも野菜と肉の煮物も温かく、アーサーは少しだけホッとすることができた。 「やはりこちらの世界の食事は合わぬかな?」  アーサーは胡麻餡の入った団子のような菓子を食べ終えると、剤は火のついていない煙管を遊ばせながら聞いてきた。 「絢菜の話だとアサ殿はパンというものを食すと聞いた。明後日は年1度の讃の大祭。世界中の商人や職人が讃に来る。パンを売る者もいるかも知れぬ」 「……」  アーサーは剤の言葉にすぐには返答できず、間を置いてから「絢菜達の作ってくれたご飯もお菓子も美味しかったよ」と言う。 「ごめん、色んなことが起こって、少し疲れたみたい……」  アーサーは立ち上がると、昨晩と同じように寝床を作る。剤も手伝ってくれて、あとは剤が行燈の火を落とすと、剤の庵は宵闇と静寂が訪れる。 「剤?」  だが、剤は行燈を消そうとしなかった。 「アサ殿は元の世界に帰られたいかな?」

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