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第14話
「でも、あとぅしはこの世界にいる時の方が認められているみたいで、幸せそうで」
夏迫と出会ったのは地方の博物館で、彼がどんなに真面目で、素晴らしい仕事をしていても、仮にそんな仕事をしていなくても、同じような扱いを受けていた。
『キュレーターという仕事をするならアメリカに来るべきだ』
と、アーサーは夏迫に言ったことがある。
実は、日本の学芸員とアメリカのキュレーター(特に能力のある学芸員)とは同じ仕事を指す単語だが、仕事で求められる範囲が違う。夏迫が自嘲していたように日本では雑務を含めて、学術的な活動をして、それを提供していく。それが悪いとは言わないが、アメリカでは仕事の範囲が細分化されて、チケットのもぎりや玄関先の掃除までやる必要はない。
その分、人を動かし、より良い学術活動や提供ができるように気を配れるのだ。
それに、今よりも夏迫とアーサーは近くで生きていくことができる。
「ちょうど、財団の方で博物館を作ろうという話もあったし、あとぅしが最高の形で働けるようにすると提案したこともあった。だけど……」
「だけど?」
「だけどね、あとぅしは今のままで良いって言った。評価されても、されなくても、自分の仕事をやるだけだって。僕があとぅしの傍へいることも考え、あとぅしに話したけど、あとぅしは曖昧に笑うだけだった」
自分も夏迫も幸せにしたいだけなのに、当の夏迫は曖昧に笑って、話をはぐらかす。苦しくて、『ちゃんと聞いてよ』と言いかけたこともあるが、その瞬間、夏迫がアーサーとの関係を全て終わらせそうでこわいのだ。
「情けないんだけど、もうどうしたら良いか分かんないんだ……」
この世界に来る直前にも思ったことだが、夏迫が望まないのであれば、アーサーは無理に求めたり、無理に与えるようなことをする気はないのだ。
「随分と思い悩まれておるな。優しくて、柔らかいのに、一方では苦しいくらいに張り詰めていて」
剤はまたアーサーの見えぬ煙を撫でるように手を動かす。
直に触れているように錯覚するくらい、剤の醸し出す雰囲気は優しい。
「アサ殿はその苦しみ、消したいとは思わぬか?」
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