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第15話

 アーサーが讃の町にやってきて、2回目の朝がやって来る。  昨夜、剤が言ったように、讃の町では年に1度の大祭があるらしく、別の町からも商人や職人が朝と共にやって来た。 「一応、祭りは明日からなのだが、前祭があってな」  前祭というのは所謂、前夜祭のようなものらしく、剤はその準備の関係やら非常時の薬を作った際に切らしてしまった薬草を調達する必要もあり、今日、明日と家を開けるらしい。 「留守にするとは伝えたのだが、どうしても、薬を処方して欲しいという者がいてな。なに、我は留守にするが、壱級絵師が使う用意も絢葉にさせたし、食事も絢菜に用意するように伝えた」  剤はアーサーが必要とするであろう宿や画材、食事を用意する代わりに薬をとある者がこの庵に渡すように頼む。  アーサーとしては至れり尽くせりで、薬を取りに庵へ来た人物に薬を渡すなど訳ない仕事だった。 「分かった。これ、渡しておくね」  アーサーは剤が差し出した薬の入っているだろう生成りの小袋を受け取る。 「かたじけない……では、頼んだよ」  裏道へ出る入口ではなく、店の方に出る入口の向こうに消える剤を見送ると、アーサーは絢葉が用意したという画材に目を向けた。参流や弐流ではない壱流絵師が使うということで、現代でいうところの岩絵具や乳鉢、すりこぎ、筆に刷毛といったものが多様に用意され、学校でアジアの絵画を習った時よりもずっと内容が充実している。 「キャンバスも沢山、用意してくれたみたい」  アーサーは白紙の巻子の1つを手に取り、紐を解く。大中小と様々な巻子が20本近く用意されていて、どんな題材を描くのも自由だった。

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