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第20話(R18)

 夏迫はビクンと身体を震わせながら土間と居室との境界線のところに腰掛けるように座り込む。  夏迫が飲み込んだ丸薬は剤が処方したもので、おそらく毒薬や劇薬の類ではないだろう。  だが、アーサーにして見れば、すぐにでも夏迫から吐き出させた方が良い代物だった。 「Get sick! Right away!(吐いて! すぐに!)」  アーサーは日本語で話すことも忘れ、絵を描く為に用意された桶を手に掴む。今まで生きてきた中でもしたこともないような鋭い視線を他の誰にでもなく、夏迫に向ける。  それに対して、夏迫はアーサーが不意に口にした英語や差し出された桶、自分に向ける鋭くて、強い視線もふるふると首を振り、口元を両手で押さえて、拒否する。  もはや、夏迫は手で口元を押さえていなければ、かすかに漏れ出ている熱くて甘ったるい吐息が漏れ出るどころか、溢れ零れてしまうのだろう。  夏迫の目元は既に桜色の絵具で塗り重ねたように染まっていて、瞳は潤いを含んで、揺れていた。 「手荒にはしたくないけど、あとぅしが吐かないなら僕はあとぅしの咽喉に指を入れても、吐かせる」  快楽に溶け切る寸前で、涎が1筋垂れた夏迫の口元にアーサーは指を這わせる。歯茎を丁寧になぞって、歯を上部に上げて開いた瞬間、咽喉の奥に指を突き立てる。 「ンっ、ンっ、ウぅ……」  夏迫が口を閉じてしまうのを防ぎつつ、リズムをつけて、アーサーの指は夏迫の咽喉の奥を刺激する。薬を吐かせる為とは言え、夏迫の食道や胃袋を犯すような行為に、夏迫の身体は物理的にも精神的にも揺さぶられ、震える。 「はぁ、ハぁ……」  夏迫の胃袋は激しく収縮して、胃の中にあったものを口外へ押し上げる。  ただ、薬や食事は既に胃酸で溶けてしまった後なのだろう。  水か、極めて色の薄いお茶のようなものが飲んだ時と同じように出てきただけで、その間にも夏迫は快楽に溶け、蝕まれていく。 「あ、アー、ティー、く、ん……」  息を絶え絶えに、夏迫はきちっと着込んだ着物に手をかけて脱いでいく。しかし、その手元は覚束ず、もぞもぞと腰紐を解こうするが、上手くいかない。 「ゆび、動か、ない……助け、て……助けて、ア、ティー、んっ……!!」  夏迫によって途切れ途切れに、呟かれるアーサーの愛称。  その瞬間、アーサーの理性もブツッと音を立てて、切れたような感じがした。 「あとぅし……あとで僕にあげない方が良かったって言わないでね。多分、返してあげることはできないから」 「うん。君が、俺を欲し、がって、くれたより、俺、君が欲し、かった」  アーサーが夏迫を欲しがったより、夏迫はアーサーが欲しかった。  夏迫の煽るような告白に、アーサーは早くも夏迫を滅茶苦茶にしたくなるが、夏迫の手を優しく握る。夏迫の苦戦していた腰紐を解く。  すると、姿を現した白縹の長襦袢は薄っすらと色が変わるくらい汗をかいて、ドロドロになっていた。

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