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第21話(R18)

「あんま、見ない、で」  恥ずかしいから、と不惑を過ぎた夏迫は桜色に紅潮させている顔を背ける。初々しいとも言える反応に、アーサーはどこまでこの人は自分を焚きつける気なのかと思うと、暗がりに浮かび上がる夏迫の細い鶏ガラのような身体から長襦袢を剥がす。 「あとぅし……」 「な、何?」 「You’re a real looker」  それは夏迫がアーサーに、アーサーが夏迫に初めて会った日。  どんな挨拶やどんな礼儀よりも最初に、アーサーから夏迫へと向けられ、与えられたものだった。 「アぁっ……!」  ぶわりというくらい夏迫の目からは涙が溢れ出す。 「あとぅし?」  どこか痛い? 苦しいところがあるとか? とアーサーは夏迫に聞くと、布団に横たわらせようとした手を止める。 「いつだって、アーティーくんは、真っ直ぐだった。真っ直ぐ、俺を、求めて、くれてた」  夏迫は滑らかに動かない口を必死に動かすと、満足に力の入らない手でアーサーを抱きしめる。 「俺、凄く嬉しかった、のに、こわくて……ごめん……ごめんね」  いつだったか、夏迫が話してくれたのだが、夏迫は10年くらい前にとある女性と結婚しようとしていたという。  夏迫の実の両親は離婚し互いに縁遠くなり、夏迫自身も悩んだが、結婚しようとしたこと。結局、夏迫は彼女と結婚することは叶わなかったこと。結婚はしないで、1人で生きていくことを決めたこと。  そんなことを話して、アーサーの気持ちには答えられないかも知れないと言っていた。そんな男にはアーサーもアーサーが自分に対して抱く気持ちも大きすぎて、深すぎて、こわかったのだと言う。 「今は良いかも、知れない、けど、こんな、おっさんの、俺なんかの為にさ、きみを、不幸に、させる訳にはいか、ないよ……き、きみは、どんな幸せ、だって手に入れられる。手に入れられる筈、なんだから……」  夏迫はふわりっと力が抜けたようにアーサーから手を離して、布団に沈み込む。  これもいつだったか、アーサーはどんな人物でも風景でも望めば好きに描けると、夏迫は言っていた。  だが、アーサー自身がアトリエに招いて描きたいと思ったのは過去も、今も、おそらく、未来にも夏迫しかいなかった。 「あとぅし……それなら、良かったよ」 「えっ」 「ごめんね。僕はあとぅしが言う誰かといる幸せなんかより、あとぅしといてなるって言う不幸が欲しいんだ」

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