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第25話 懐古する佐藤
今日は何故か荷物を整理すると言い出した佐藤と、物置になっている部屋に来た。
僕がこのマンションに転がり込んできたけれど、十分な広さがあるから別に整理しなくても良いのでは無いかと思って居るんだけど…一軒家借りる計画はまだ生きているのかな。
もう、引っ越しとかもお金かかるし、ここ最高だと思うんだけど・・・。
8畳ほどのフローリングの部屋は、色々置いてあるけれど意外と整理されていて綺麗だ。
「おい、見ろよ千歳!懐かしいぞ!」
何やら色々ビニールに詰めてた佐藤が、ゴツくて長細い機械を持ち上げた。
赤いボディに黒いスピーカーのような円いメッシュの部分がある。
あーー、なんか映画で見たことあるかも。
「CDデッキ!?」
「おい!ラジカセ知らねぇのか!?」
ラジカセ??
ラジコンの仲間??あ、超昔のラジオか!
僕は佐藤に近づいてその機械を手にして驚いた。
「重い!!ラジオでしょ!?」
それは僕がイメージするラジオなんかとは重さが違って鉄アレイくらい重かった。
「今の物が何でも軽すぎるんだろう……むかしの若者はこれを片手に持ったまま踊ってたんだぞ、ブレイクダンスとかよぉ」
「…凶器じゃん」
なんでこれ持って踊るの?
置いておけば良いのに…。
佐藤がまた段ボールを漁っている。
「あったぞ!!テープだ!」
佐藤がまた映画とかで見たことあるカードより少し大きいくらいの二つ穴のものを取り出した。
これが、いわゆるカセットテープってやつ??初めて見た。
「これ、かけてみろよ」
ニヤニヤとテープを渡された。
僕はラジカセを床に置いてテープを受け取った。
これ…何処に入れるの??
この真ん中に二つ入りそうな所有るけど…
適当にボタンに触れてみるけど、うんともすんとも言わない
「古いから壊れてるんじゃないの??充電??電池??」
「ばっか、おまえ、昔のボタンっつーのはツンって触るんじゃねぇよ、下まで押すんだよ。此処押したら開くぜ」
佐藤が四角いハイチュウくらいのボタンを押したら、前に開いた。
「おぉ…」
「ちなみに、それはB面がおすすめだぜ」
「B面ってなに??」
「……まじか…」
佐藤の顔が信じられないものを見る目をしている。
僕らの間に年の差の風が吹き荒れた
「一般的にメインがA面でカップリング曲とかがB面だろ」
佐藤がカセットをくるっと回して説明する。
「カップリング曲??収録曲ってことね。」
「……」
「いいからかけてみなよ、早く!」
呆然と僕を見つめる佐藤の手を引っ張る。
佐藤が、テープを入れて、ボタンを押し込んだ。ガチャってホントに音がした…。
~♪
「すっごい音荒い!」
なんか…空気の音とか入ってそうな感じ…
「まぁ、しょうがねぇよな、テレビの音録音したり、ラジオから録音してるんだからな」
え?すごいじゃん!USB機能ついてんの??
っていうかラジオって録音できんの??
「それって、犯罪じゃ無いの??」
勝手に録音したら。
「時代だ、時代!!CD出てくるまではそうだったんだぜ。CDでたら、こんどはCDすげー借りてきてテープに録音して、最高のテープ作ったんだぜ!!」
「なんで、CDをテープに録音…CD聞けば良いじゃん」
わざわざ音源の荒いテープにする意味が分からない。
「アルバムならいいけどよ、シングルCD毎回入れ変えねーで、俺ヒットチャート聞けるんだぜ!車も暫くカセットだったしな。最後まで聞くと裏返して巻き戻さねぇで反対が聞けるんだぞ。」
「へぇ~」
さっぱり分かんないけど面倒くさい時代だ。
「お前、まさか…MDもしらないか?」
佐藤が違う段ボールに走り、ガサゴゾと再び漁り始めた。
「これだ!!」
なんだか、CDの小さいのがケースに入っている物が出てきた。
まったく見たことがない。
「しらない」
「まじか!!確かに短い期間だった…これはどうだ!?MP3プレイヤー」
佐藤の手には、ゴツいiPodが握られている。
「iPodの昔のやつ??」
「ちがう、iPodはこっちだ」
やっと見たことあるものが出てきた。
「ふぅーん。電話できる?」
「できない…」
ぴゆーーーん
再び、二人の間に時代の風が吹き荒れた。
なんとなく目をそらした先に、この部屋に相応しく無いものを見つけた。
プラスチックの透明なケースに納められている
少女漫画
しかも、あれ知ってる。
Ωの主人公のシリーズだ。
ふらふらと漫画に近づいていた。
「ああああ!!待て!ちょっと待て!!」
漫画を一冊取り上げてみた。
佐藤には似合わない可愛い漫画だ。
佐藤が慌てて僕の手から漫画本を取り上げた。
精悍な顔が真っ赤になって、手で髪を掻き上げた。
可愛い
でも、なんでそんなに照れているのだろう。
少女漫画好きだってバレたのが恥ずかしいのかな。
「べつに少女漫画好きは恥ずかしいことじゃないと思うけど…」
佐藤の手から漫画を取り上げてケースにもどした。
誰にでも、あんまり触れて欲しくない事もあるだろう。
そっとしておいてあげよう。
「これは……違う…お前と出会ったときに…」
佐藤が大きい体を俯かせてモゴモゴ話し始めた。
「であった時に??」
「今の若い奴らの恋ってのを勉強しようとおもってな…」
ドキン
なにこの可愛いおっさん。
僕の為に、わざわざ少女漫画を買って読んだの??
「じゃあ…やってみてよ…最近の恋ってやつ」
佐藤の照れている顔をニヤニヤ見ながら、佐藤の胸に抱きついた。
苦い顔をしながら佐藤が僕を見下ろした。
「意地悪いうなよ。お前相手には何の役にもたたなかったけどな。お前、とんでもない規格外だったからな…」
佐藤が僕の頬を両手で包み込んだ。
眼光鋭い佐藤の目に射貫かれる。
身長差が大きくてグッと上を向かされた。
うっ…どきどきする。
やってみてとか言ったけど
「…千歳」
あああああ駄目!!
エンペラーにときめき殺しされる!!
やめて!そんな格好いい顔で見つめないで!!
ゆっくりと近づいてきた佐藤の唇が僕のものと重なる。
お互いの唇が触れあうだけの、優しいキス。
「…好きだ」
「……」
あわわわわ!!!
だめ、もう!!足がふにゃふにゃになる!!
僕はぐったり床に伏せた
「……お許し下さい…」
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