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夜明けの華 7

 十六畳程の白を基調とした広い室内は、台風一過の如く荒れ果てていた。脱ぎ散らかしたままの衣類、飲み残したペットボトルは何本も床に転がり、ファーストフード店の紙袋やスナック菓子の空き袋は至る所に落ちている。雑誌や書籍も床に散らばっている有様だ。唯一腰を降ろせる場所はデスクチェアとベッドの上しか見当たらない。足の踏み場もない、乱雑な仕様の室内をぐるりと見渡し、蓮は感嘆の声をあげた。 「清々しい程に汚い」 「うるせぇよ!」  これは掃除が必要だなと脳内メモに一筆し、体ばかり成長した子供を改めて眺めた。部屋を出る気のない蓮に諦めたのか、肇は音を立てて椅子に座り、胸ポケットから煙草を取り出した。  慣れた手つきで煙草の先に火をつけ、肇が一息吸った瞬間、蓮はそれを左手で奪い取った。 「こら、きみは幾つだ」 「さっきから何様のつもりだ、返せ」  蓮を睨みつける肇の瞳はさながら鋭く研がれた刃物のようだが、赤らめた頬からあどけなさがみてとれる。 「煙草は二十歳になってからだ。そもそもこんな乱雑な部屋で火を扱うんじゃない、火事が起きたらどうする」  蓮はデスクの端に置かれた灰皿を見つけ、煙草の先端をぎゅうと押し潰した。 「最近親しくなったお友達の真似か」 「うるせぇ、でていけ」 「夕飯は。腹は空いてないのか。何か食べてきたのか」 「うるせぇ、でていけ」  同じ言葉しか発しない自動人形のようだ。 「風呂は」 「でてけ」 「親睦も兼ねて、一緒に入ろうか」 「……」  無言で睨みつけられ、蓮は渋々と部屋を出た。客室へ向かう途中、悪くない子供だ、と小さく呟いた。

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