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夜明けの華 8

 翌朝、蓮がシャワーを浴びている間に藤田は出勤していた。 「おはようございます、原田さん。もうすぐ朝食の用意が整いますので」  キッチンから顔を覗かせた藤田に挨拶をして、二階にある肇の部屋へと向かう。  ノックと同時にドアを開くと、肇はベッドの中で眠っていた。 「寝顔はまだまだ子供だな」  ベッドの脇に丸まったティッシュが転がっている。布団をめくると、着ているのはTシャツだけだった。  まあこの年なら毎晩でもシコるか……と微笑ましく思いながら、ティッシュをゴミ箱へ投げ捨てる。ついでに周りのゴミも拾い、脱ぎ散らかされた洋服達をたたみ始めた。 「生ゴミが放置されていないなら可愛いもんだ」  机の上の灰皿には、煙草の吸殻が三本。眉をしかめ、灰皿を取ろうとした時、蓮の右手がパソコンのマウスに触れた。  突然ディスプレイが作動し、思わず手を止める。 「電源をつけたまま寝たのか……」  言いかけて言葉が途切れた。ディスプレイはゲイ動画のページを開いていた。  背後を振り返ると、肇はかすかな寝息をたてて眠っている。 (……見なかった事にしよう)  思春期の子供が他人に知られたくはないだろうとひとり頷き、蓮は音をたてずにベッドの脇を通り過ぎ、静かに扉を閉めた。  藤田が肇の部屋に内線をかけて暫くすると、出かける準備を終えた肇が姿を現した。 「肇さん、おはようございます」  藤田の挨拶を無視して食卓に着こうとした肇を、蓮が呼び止めた。 「肇くん、挨拶を忘れているぞ。降りてきたらまずは『おはようございます』だろう」  肇は無言で蓮を睨み、そのまま席に着いた。蓮の存在を否定する事に徹したのだろう、抗う姿勢をビシバシと感じる。けれどそんな態度も想定内だ。蓮はひるまない。  肇が箸に手をつけたところで、再び蓮が声をあげた。

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