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夜明けの華 9
「肇くん、『いただきます』を忘れているぞ。どうした、『いただきます』」
次の瞬間、ガンと鈍い衝撃音がダイニングに響いた。肇が拳でテーブルを叩いた音だ。
「アンタほんと、マジでうるせえ」
存在無視する事を早々と諦めた肇の様子に、蓮は満足げに微笑んだ。
「肇くんは悪くないそ、きちんと挨拶を教えなかった父親の社長が悪い」
蓮は自分の言葉に大きく頷き、だからこれから覚えれば良いと付け加えた。
キッチンの奥からは、藤田が不安げにこちらの動向を見守っている。
肇は手にしていた箸をテーブルへ投げ捨て、勢いよく立ち上がった。
玄関へと向かう肇の背中に、朝食はもういいのかと声をかけるも完全無視され、肇は外へ出て行った。
「やれやれ……彼はちゃんと学校へ向かったのかな」
蓮が呟くと、藤田がおずおずとやってきた。
「あの、原田さん……お手柔らかに、お願いします」
怯えた表情の藤田に蓮は「大丈夫でしょう」と軽く答えた。
「そういえば彼の通学は、運転手さんの送迎があるんですよね」
昨晩目を通した資料には、そう書いてあった。運転手らしき人物と顔を合わせていないなと、疑問に思っていたのだ。
「ええ、以前はそのようでしたが、ここ最近は、おひとりで通学されているようです」
「勝手に?」
「いえ、以前、肇さんが旦那様とお話をされて、とりやめたと伺っています」
「社長公認ですか?」
詳しくはわかりかねますが……、と藤田は言葉を濁した。
蓮が味噌汁を飲み干したところで、再び藤田が口を開いた。
「あの、原田さん、実は私……先日の昼間に、肇さんをお見かけしたんです」
「昼間?」
「はい、駅の近くで、その……お友達と数人で、歩いていました」
でも私、気付かぬふりをしてしまって……と声を細め、藤田は黙ってしまった。
「学校をさぼって遊んでいる現場を目撃したんですね」
まあ想定内だなと頷き、蓮は出かける支度を始めた。
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