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夜明けの華 11

「ざっけんじゃねぇよ、なにが保護者だ、てめぇなんかしらねえよ!」 「いくらなんでも口が悪いぞ、俺の事は『原田さん』と呼びなさい」 「知るか!」  肇が足音を立てて階段をかけあがっていく姿を藤田と蓮は並んで見送り、叩き付けるようなドアの音が響いた後、一呼吸置いて、藤田は小声で蓮に話しかけた。 「原田さん、おかえりなさい……朝出て行ったきり、お戻りにならなかったので、心配しました」 「そうでしたか、申し訳ありません。肇くんの一日を、こっそりと覗き見していました」  あははと笑い答えると、藤田は驚いた表情で蓮を見つめた。 「藤田さん、今日の夕食はなんですか」 「あ、はい。既に準備は出来ておりますので、いつでもどうぞ。本日のメインは鶏胸肉のおろし煮です」  蓮は少し間をおいてから、帰る支度を始めた藤田を呼びとめた。 「あの、藤田さん」 「はい?」 「出来たらもう少し、肇くんが喜びそうなメニューの方が良いかなと……そうだな、彼の好きな食べ物は、ハンバーグ、エビフライ、オムライス……」  肇資料を思い出しながら説明をしていると、再び二階から激しく扉を閉める音が聞こえてきた。バスルームにでも移動したのだろうか。  藤田が退社した後、肇を夕食に呼んだが降りてくる気配はなかった。  蓮はひとりで食卓につき、その時ふと、改めて部屋の広さを感じた。  そう、この家は、広いのだ。 (子供が独りで食事をとるには、余りにも広い空間だ)  昼間見た、肇の笑顔を思い出す。  蓮は目の前に並べられた料理を眺めながら、幼い頃の自分を思い出した。  六畳一間のアパートで、蓮は一人ぼっちだった。

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