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夜明けの華 14

「更に言うと、料理を作るのは得意なんだ。食べたいものは自分で作る。だから、俺が食べたいものに、肇くんは付き合ってくれないか」  藤田さんにはお願いしておくからと、付け加える。  肇は蓮の「お願い」に頷くことはなく、だが、拒絶もなかった。 「あと、そうだ。きみの保護者と名乗るには、身分証明が必要だな」  蓮は用意していたものを胸ポケットから取り出すと、肇の手の平の上に乗せた。 「……名刺、なんて、いらねーけど」  即座にゴミ箱へ投げ捨てようとした肇を、コラコラと制止する。 「この電話番号は、いつでも必ず俺に繋がる。なにかあれば、すぐに電話していい」  蓮は肇の頭に左手を置き、見た目よりも柔らかな髪をくしゃりと撫でた。肇は無言で、じっと手の中の名刺を見つめていた。  保険がわりに渡した名刺は、翌日、早速活用された。  夕暮れ時。蓮が客室で資料の作成に没頭している最中、スマートフォンに未登録の番号から着信が入った。  用心しながら応答すると、相手は駅前に建つ大型書店の店員だった。  ネクタイを締めながら階段を駆け下りた所で、藤田さんとすれ違う。 「原田さん? どうかしましたか、そんなに慌てて」 「いや、ちょっと、出かけてきますね」  藤田への対応もそこそこに、蓮は玄関を飛び出した。  蓮は今年で三十二になる。中堅クラスの世代に入ったが、容姿はどうにも若く見える。時と場合によっては不利な事もあるが、愛する光石に愛され続ける為に、若さは常に保っていたいと心がけている。 「息子がご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ありませんでした」

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