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夜明けの華 15

 深々と頭をさげ、「お詫びにもなりませんが」と、途中で購入した高級和菓子店の包みを差し出した。  万引き未遂で捕まった当の本人は、ぶすったれた表情のまま、無言を貫いている。クソガキと心の中で悪態をつきながらも、両手で『息子』の肩を抱きよせ、優しくさすった。 「妻を亡くしてから男手ひとつで育てておりますが、なにぶん仕事の忙しさから、独りにしてしまうことが多いもので……教育いたします、申し訳ありませんでした」  再び深々と頭を下げ謝罪を重ねると、書店の店員は「まあいいですよ」と態度を緩めた。 「それにしてもお父さん、お若いですねえ……男手ひとつで、大変でしょう」  上から目線にもとれる言葉にカチンとしながらも、蓮は低姿勢のまま、謝罪を続けた。  書店から光石邸までの帰り道、蓮が何度声をかけても、肇は終始黙秘を続けていた。  やがて蓮も諦め、肇の右手を握り締めて、黙々と家路を辿る。繋いだ指先をふりほどこうとはしない肇の様子に反省の色を感じ、蓮は心の中で一息吐いた。まだ子供なのだ。大人びた子供よりもずっと素直だと思えば、身長ばかり伸びた隣の子供は不器用で可愛いものだと頬が緩んだ。  大きな邸宅を目前にした頃、ふいに肇がぼそりと呟いた。 「なんで、あんな……アンタが頭さげてんだよ」  蓮は隣を歩く肇の横顔に目を向けた。 「ん? なんでって、そりゃあ、当たり前だろう」  肇の表情は硬く、視線を下げたまま、こちらを向く気配はない。 「今現在、きみの保護者は、俺なんだから」  肇は無言のまま、そこで会話は終了した。ただ心なしか、握り締めていた肇の手が、温かみを増したように思えた。

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