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夜明けの華 16
結論から言うと、蓮が提案した「ゲーム」は、効果覿面だった。
毎日ではないが、寄り道せずに帰宅する日が増えた。
そして、会話はないが、肇は蓮と並んで夕食をとるようになった。
藤田は驚き、蓮に何をしたのかと訊ねてきたが、勿論正直に答える事は避け、言葉を濁す。原田さんは子供の扱いがとても上手なんですねとお褒めの言葉をいただき、少々複雑な気持ちではあったが有難く受取った。
蓮が光石邸で住み込みを始めて七日目の夜。机上に配置しているスマートフォンに着信が入った。珈琲を飲みながら画面に視線を向け、社長の文字が目に飛び込んだ瞬間、ひゅっと喉が鳴った。手にしていたマグカップを慌てて机へ置き、スマートフォンを掴む。
「社長、お疲れ様です」
なかなか連絡が出来ずにすまない、と勿体無いお言葉が耳に響く。
光石が急遽台湾支社へ向かい、本社へ戻るまでに時間がかかると伝えられたのは、光石邸に入った翌日夜の事だった。あの日は酷く落胆したものだったが、気付けばあっという間に一週間が過ぎようとしている。
簡潔に近況を報告し、早々に電話を切ろうとする蓮を光石が引き止め、「愛しているよ」と囁いた。
電話を切った後、蓮は光石の声を思い返し、しばし余韻に浸った。久々に聞いた愛する人の声。思い出すだけで身体中が疼き出す。
(ああ……社長に会いたい)
光石との最後の情事を思い出しながら、蓮は緩やかに立ち上がった自分の一部をルームウェア越しにそっと撫でた。身体は正直で、愛する人の体温を欲しがり始める。叶わない事はわかっているのに疼きは増すばかりで、堪らず蓮は右手を下着の中へと忍ばせ、後孔に指先を当てた。光石に触れてほしい。あの熱い彼の分身を今すぐこの身に埋め込みたい。想像するだけで、蕾がひくひくと震えた。
(社長、こんなにも会いたいのに)
堪えきれずにローションを取り出し、自分の手のひらにどろりとした液体を垂れ落とすと、ぬめりを帯びた指先で自ら孔の周りをほぐし始めた。
左手は陰茎を握り締め上下に扱きながら、腰をあげたままベッドへうつぶせに倒れこむ。光石とのセックスを脳裏に描き、快感を求めた。肌に触れたい、キスをしたい。ロマンスグレーの髪に指先をとおして、抱きしめたい。形の良い薄い唇から、名前を囁いてほしい。舌先を絡めて、吸い上げて。
「ん、あっ……」
蓮が小さく声を漏らした時、扉の向こうから肇の声が聞こえてきた。
「原田、起きてるか? 入るぞ」
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