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夜明けの華 22
「忙しい中に突然、すまなかったな。隠しファイルに気付けず、時間を使わせてしまった」
別段悪びれもない様子で軽く頭を下げる男に、蓮は笑顔で答えた。
菅谷から珈琲カップを受取り、礼を言う。
「菅谷さんおひとりに仕事をお任せしてまって、申し訳ありません。一刻も早く職務に戻れるように、最善を尽くします」
「きみがここに戻る? ああ、引継ぎ作業か」
菅谷のわざとらくとぼけた表情に、蓮は苛立つ気持ちをぐっと堪え、口の端で笑って見せた。
「私は今、社長直々のご命令により一時的に外部へ出ていますが、菅谷さんに第一秘書のポストを譲る気はありませんよ」
蓮の言葉を聞きながら、菅谷は切れ長の目元を更に細め、それからフンと鼻を鳴らした。
「社長が何故、第一秘書のお前に『子供のお守り』を任せたのか、君自身はどう思っている?」
菅谷は右手の中指で銀色に光る眼鏡の縁を上げ、口の端に笑みを浮かべながら蓮を見つめた。
「……私を信頼しているから任せると、社長は仰った」
蓮の言葉に菅谷はふぅんと相槌を打ち、軽く頷いた。
「そうだね、そうだろう。社長は君を『信頼している』から、大切なご子息を、隠密に更正させるよう、そう、誰よりも『信頼できる』君を、派遣したんだ」
まるで幼児に言い聞かせるように、一語一句、ゆっくりと言葉を発する菅谷に、蓮はあからさまに苛立つ姿勢を見せた。
「何が言いたい」
「第一線からお前を外す、理由が欲しかったのさ」
「想像でしかない事を言うな……!」
菅谷の襟元を掴みかけた蓮の右手を払い、落ち着けよと菅谷は笑う。
「想像だなんてとんでもない。社長直々に相談されて、助言したのは、俺なんだから」
堪えきれないと言いたげに、菅谷は声を殺して笑い始めた。
「本当はわかっているんだろう、原田。社長はお前との関係に、『飽きた』んだよ」
蓮を正面から見据えた菅谷の瞳は、笑ってなどいない。
「ここにお前が戻る場所は、ないと思え」
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