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夜明けの華 23

 本社ビルを出てすぐに、蓮はタクシーに乗り込んだ。職場を離れたくはなかったが、まだ使命は果たせていない。社長のために、肇のために、あの家へ戻らなければ。 (でも少し、疲れたな……)  後部座席に深く身体を預け、蓮は静かに目を閉じた。  ふと目を覚まし、自分が眠っていた事に気がつく。腕時計を見ると、本社を出てから一時間がすぎていた。  顔を上げた蓮に気付いた運転手が、ミラー越しに声をかける。 「お客様、この先で火事が起きたようで。道がちっとも進まない状況です」 「火事?」  身体を起こし、窓の外へ目を向けると、行きかう人々の様子が慌しく、遠くからサイレンが聞こえてくる。 「この先の住宅街といったら、財界の大物達が邸宅を構える高級住宅街ですよねえ、こりゃ早々にニュースにあがるな」  やれやれ参ったと首を振る運転手の、その先に見える方角を見つめ、蓮はポケットから財布を取り出した。 「ここで降ります」  光石邸まで、一キロ程の辺りまで来ていた。まさかとは思うけれども、湧き上がる不安を止められず、蓮は足を速めた。渋滞で機能していない大通りを横目に、人混みをすり抜けながら家路を急ぐ。腕時計をみると時刻は十九時を回っていた。通常なら藤田さんは退社し、肇は帰宅している頃だ。 (何事もなければそれに越した事はない……)  そう願いながらも、前方に見える黒煙が目指す方向にあることに、鼓動は早まる。目前にせまった頃には、たまらずに駆け出していた。  光石邸の門は開かれ、大勢の人間が塀の周りを囲んでいた。人混みを掻き分けて敷地内へ走りこむと、既に消防車が配置を組み、出火元の二階へと、放水作業をはじめていた。 「原田さん!」  名前を呼ばれ振り返ると、青ざめた表情の藤田が立っていた。

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