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夜明けを願い、夢を見る 1

 二週間の海外出張から自宅へ戻ると、一人暮らしのはずの家から「おかえり」と出迎えられた。  事実上恋人という立ち位置の肇は、大学生になってから三日とあけずに蓮の家に顔を出すものだから、まるで通い妻だ。蓮もはじめのうちは窘めていたものの、やがて諦め、甘んじて受け入れるようになってしまった。 「原田、会いたかった」  玄関先でひとしきり抱きしめられた後、引きずられるようにリビングへと手を引かれ、ソファへ座る事もままならず、激しいキスの猛攻撃にあっている。長旅の疲れが押し寄せる中、せめて座らせて欲しい。  辛うじてスーツの上着を脱ぎ、手近の椅子の背にかけたところで再び身体を拘束された。 「肇、待て、シャワーを」 「そんなの、あとでいい」  肇は乱暴な手つきで蓮のネクタイを引き抜き、シャツを裾から捲り上げた。このままだとボタンを引きちぎられかねない。ラグの上に押し倒され、噛み付くようなキスを繰り返しながら器用に蓮のベルトを外していく肇を両手で押し返し、待ったをかけた。 「わ、かった! わかったから、落ち着け、せめて寝室へ」 「嫌だ」  ほんの数メートルの移動も拒まれ、はあとため息を吐く。諦めた蓮は、せめてシャツだけでも死守しようと自分でボタンを外し始めた。二週間会えなかっただけで、まるで駄々っ子だ。余裕の無い表情で自分の身体にすがりつき、思うままに欲望をさらけ出す。  二十歳を過ぎて見た目も行動もすっかり大人びたというのに、自分の前ではこんな調子だ。甘やかしすぎたのだろうかと、肇の愛撫に応えながら考える。  はだけたシャツからのぞく肌に触れた肇の表情がみるみる強張っていく。蓮がその変貌に気付いた時には、肇の眉間にはくっきりと皺が寄り、蓮を睨みつけていた。 「わざとらしい跡なんかつけやがって……くそっ」  鎖骨の下につけられた赤い跡の事は気付いていた。社長の海外事業部視察に付き、台湾、中国と二週間の出張期間中に何度も肌を重ねている。つけられた跡はひとつやふたつじゃ足りないし、消えたものもあれば残っているものもある。  その殆どが故意につけられたものだとわかっているし、その行為をやめてくれとは言えない。

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