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第2話

 なぜ自分が今、こんな状況に置かれているのか解らなかった。   「何」が起因して「こう」なっているのだろう。  俺の思考力が貧しくなってしまったわけではなく、冷静な頭脳で考えても全く解らないのだ。  もう考えることをやめたほうがいっそ楽なのかもしれない。そんな思いつきが脳裏をふとよぎってから、実際にそうするまでの時間はほぼ0秒だった。酷い叱責は人の考える力を奪う、つまりこれは仕事の効率化には繋がらない。むしろパフォーマンスはガタ落ちと言っていいだろう。役立たずに対して「役立たず」と蔑んだら、そりゃ無気力になるって。    俺はこういう時、決まって幼なじみのことを思い出す。  「決まって」という言葉から解るように、俺が上司から激しく叱咤されるのはほぼほぼ日常茶飯事である。周りの職員たちも皆んな「またか……」って顔してる、と思う。見えないからこれはただの想像だけど。人の表情を勝手に推測するようになったのは、一体いつからだっただろうか。  俺と幼なじみは、高校までずっと同じ通学路を歩き続けた。実家が隣接しており、かつ学力も拮抗していた故それは必然のことだった。そんな俺たちだったのにどうしてか仲がすこぶる悪く、目が合うたびに口喧嘩、授業中だろうと関係なくきっかけさえあればなりふり構わず言い争った。時には通学途中に出会ってしまい、口論を繰り広げながら登校するなんて少々トチ狂ったこともやっていた記憶がある。思い返せば普通に馬鹿だったな、俺もあいつも。お互い勉強だけは抜群に出来たのに。  そう、俺だって勉学ではいつでも一番だった。負ける相手といったら幼なじみくらいのもので、あいつさえ居なければといつも疎ましく感じていた。  そんな俺だから、今こうして公務員として働くことができているのだ。同級生で市役所の職員に採用されたのは自分だけだった。そもそも高卒で就職するというのが選択肢にない人間ばかりだったから、それで人と比べるのは間違っていると思うが、だけどあいつよりは、幼なじみよりは確実に「優っている」と実感している。  あいつは大学進学を目指していたが失敗し、現在も浪人生を続けているらしい。  そんな人間より、将来の安泰が約束された職場で安定した収入を得ることのできている自分の方がよほど優秀だろう。  そう思っている。今でも。  上司に大声で怒鳴られている、今でも。

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