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理不尽な恋が終わる刻 1(雪夜)
***
一体どうしてこんなことに……
つい数分前まで愛しい人の温もりに触れていた額が
今では床の冷たさを直に感じている
耳が痛いほどの静けさの中、自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえた――
***
優しく頭を撫でられている。
大きな手があったかくて気持ちがいい。
その手が下りてきて、頬を撫でる。
俺は……この手を知っている。
……もっと撫でて欲しい……
雪夜は、頬から離れようとした手をぎゅっと掴むと自分から頬を擦り付けた。
「……ふふっ」
笑い声?
雪夜が目を開けると、声を押し殺して笑う夏樹がいた。
え、何?
「ごめん、可愛くて笑っちゃった。ソレ……」
キョトンとしている雪夜の頬を夏樹が指差す。
その時初めて自分がもう片方の夏樹の手を掴んでいることに気付いた。
「ぅわっ!ごめんなさいっ!!俺寝惚けてっ……」
パッと手を放すと、勢いよく起き上がって少し後退する。
あ、俺また……
自分を見下ろし、服を着ていることに気付く。
いつも行為の後に目が覚めると、ちゃんと服を着ている。
夏樹が着せてくれているのだろうが、そのことを考えると高層ビルの屋上から飛び降りたくなるので、あえて考えないようにしている。
「いいよ、俺は嬉しかったし」
「嬉し……っぁ……そう……ですか……」
熱くなった顔を両手で隠す。
「……あ、そういえば時間っ!」
ふと我に返りベッドから出ようとしたが、立ち上がる前に肩を抑えられ、またベッドに押し倒された。
「わっ……え、夏樹さん?」
夏樹が上から見下ろして来る。
えっと……?
「ちょっと話がしたいんだけど」
「はな……し?」
「そう。いろいろとね」
いろいろと?え、何の話だろう……
この体勢だからてっきり……またするのかと……って、何考えてんの俺っ!?恥ずかしいぃ~っ!
自分の勘違いにまた頬が熱くなる。
いや、それよりもっ!
「あの……今……ですか?」
「そう、今」
「でも俺……電車の時間……」
「俺と話しするのイヤ?」
夏樹が鼻と鼻が当たるくらい顔を近づけてきて、額をコツンと合わせた。
「いぃいいいいやじゃないですけどっ……そのっ……俺帰れなくな……」
ひぇええええっ!!待って、顔っっ!!
雪夜はいまだに夏樹のドアップは直視できない。
ヤバい、カッコ良すぎる!!鼻血出そうっ……!!
自分が面食いなつもりはなかったが、夏樹は誰が見てもイケメンだ。
その顔のドアップなんて……とてもじゃないけど無理ぃ~~!!
キスをする時は目を閉じているのでなんとか耐えられるけど……っていうか、キスして欲しいな……
雪夜の心の声が聞こえたのか、夏樹が軽く口付けた。
「うん、泊まればいい」
「泊まっ……え、だからそのっ……それはっ……」
夏樹の口から出た言葉に、一瞬動揺してしまった。
最近やたらと夏樹が口にしている言葉なのに……この距離で言われているからか、いつものように上手く躱せない。
額をくっつけられているせいで、顔を背けることもできない。
せめてもの抵抗として、夏樹の視線に捕まらないように、瞳をキョロキョロと動かした――
***
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